認知症の暴言と家族の対応|身の安全と、相談・受診のつなぎ方【Vol.97】


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認知症のある親に、きつい言葉をぶつけられる。怒鳴られる。身に覚えのないことで疑われる。ときには、親の手が出そうになる。ご家族にとって、とてもつらい場面です。「親の暴言がつらい」というご相談をいただくことがあります。

この記事では、認知症のある親の暴言や怒りっぽさへの関わり方を、次の3つに絞って整理します。東京都、国、府中市、国立長寿医療研究センター、警視庁、東京消防庁など、公的な情報をもとにしています。

  • 身の危険を感じたときの動き方と連絡先
  • 場面ごとの関わり方と、受診・相談の目安
  • 家族だけで抱えきれないと感じたときの相談先

認知症そのものの説明と、家での支え方の全体はVol.52にまとめました。この記事は「暴言や怒りが出る場面」に絞っています。病名や原因を決めるのは医師です。

結論を先に|安全を最優先に、怒りの奥の「理由」を見て、早めに相談を

先に結論を3つお伝えします。

  1. 危ないと感じたら、言い返さず、その場を離れて安全を確保してください。これは当ステーションの考えです。連絡先は次の節にまとめました。
  2. 怒りの奥には、本人なりの理由があると言われています。東京都のパンフレットは、「認知症のある方が落ち着かなかったりするのは、決してわがままではありません。」と書いています。ご家族が責められることでもありません。
  3. ご家族だけで抱えず、早めに相談してください。同じパンフレットは、「一人で解決しようとせず気軽に相談してみてください。」と呼びかけています。

身の危険を感じるときは|その場を離れて、連絡する

叩かれそう、物を投げられそうなど、身の危険を感じたら、言い返さず、その場を離れて安全を確保してください。別の部屋へ移る、外に出て人のいる場所へ行く、などの方法があります。これは当ステーションの考えです。ご本人のことが心配でも、まずご自身の安全が先です。

連絡先は、状況に分けて並べます。

  • たった今、被害に遭ったとき・目撃したとき:110番。警視庁のページは、「ただし、たった今「被害や交通事故に遭った。」、「事件や交通事故を目撃した。」という場合には、緊急ダイヤル「110番」をダイヤルしてください。」と案内しています。警察に相談したいときは、下の#9110へ連絡してください。
  • 警察に相談したいとき:#9110(警視庁総合相談センター)。警視庁のページは、「相談内容に応じて相談窓口等をご案内します」「電話:#9110(東京都内でダイヤルすると当センターにつながります。)」と案内しています。
  • けがや急な体の不調があるとき:119番。急を要すると感じたときは、迷わず連絡してください。
  • 救急車を呼ぶか迷うとき:#7119(東京消防庁救急相談センター)。東京消防庁のページは、「東京消防庁救急相談センターでは、これらの相談医療チーム(医師、看護師、救急隊経験者等の職員)が、24時間・365日対応しています。」と案内しています。
  • かかりつけ医・地域包括支援センター:かかりつけ医のほか、お住まいの地区の地域包括支援センターにも相談できます(受付時間は各センターのページでご確認ください。担当のセンターは府中市のページで確認できます)。府中市を担当する認知症疾患医療センターは、東京都の一覧のページで確認できます。

国立長寿医療研究センターの医療関係者向けの資料でも、薬による治療を始める目安のひとつに、「本人または介護者に危険が及ぶ」が挙げられています。治療の進め方は、主治医が診察して決めます。危険を感じる出来事があったときは、落ち着いてから、主治医やかかりつけ医に伝えてください。

認知症で怒りっぽくなることがある理由|原因は1つではありません

東京都の「とうきょう認知症ナビ」は、認知症をこう説明しています。「認知機能の低下により、不安・うつ・怒りっぽさ・幻覚・妄想・意欲の低下・不眠などの行動・心理症状(BPSD)が出る人もいます。」すべての方に出るわけではありません。

なぜ起きるのかについては、公的な資料に次のような説明があります。

  • 体の状態や生活の環境など、さまざまな要因が影響する。東京都のキーワード集は、脳の障害による認知機能の障害のほかに、身体の状態や生活の環境などが影響して、精神症状や行動上の支障が起きることがある、と説明しています。原因は1つとは限りません。
  • 本人なりの背景や理由がある。厚生労働省の審議会の資料は、行動・心理症状のうち周囲から見ると「妄想」などと見える症状にも、本人なりの背景や理由があると言われている、としています。
  • 混乱が、怒りとして出ることがある。東京都のパンフレットは、何か失敗したときにどうしたらよいかわからずに混乱し、イライラしたり、怒りを覚える人もいる、と書いています。
  • 気持ちを伝えにくい。東京都のパンフレットのコラムは、「言葉にできない『隠れたつらさ』を伝えていることがとても多いのです。」と書いています。

どれが当てはまるかは、一人ひとり違います。診断や原因の判断は、医師が行います。

家族が戸惑う4つの場面|一般的な例と、関わり方の入口

ご家族が戸惑いやすい場面を、一般的な例として4つ挙げます。事例ではありません。

① 怒鳴る、ひどい言葉を言う

厚生労働省の審議会の資料は、暴力行為について、「自分の気持ちをうまく伝えられないなど、感情をコントロールできないために暴力をふるう」と説明しています。当ステーションの考えでは、その場で言い返さず、危ないと感じたら離れてください。

② 家族を責める、疑う

「盗ったでしょう」「何もしてくれない」と責められると、ご家族は深く傷つきます。同じ資料は、行動・心理症状の例に、「穏やかだった人が短気になるなどの性格変化」を挙げています。以前との違いに戸惑うのは自然なことです。当ステーションの考えでは、事実を言い争って正そうとするより、その言葉の奥にある不安に目を向けるほうが、お互いに消耗しにくいと思います。

③ 手助けやケアを拒んで怒る

着替えや入浴、薬など、手助けを拒んで強い口調になることがあります。急かされたと感じているのかもしれません。関わり方は次の節にまとめました。

④ 同じことを何度も聞かれ、家族もつらくなる

国立長寿医療研究センターの看護部の記事は、「こうしたやり取りは、介護や支援をする側にとって、大きなストレスとなることも少なくありません。」と書いています。つらいと感じるのは、ご家族が弱いからではありません。疲れが重なる前の相談先は、後の節にまとめました。

その場での関わり方|当ステーションの考えと、公的な案内

この節は、当ステーションの考えと、公的な案内の紹介を分けて書きます。

当ステーションの考え

  • 言い返さない。言葉の内容を正そうとしない。
  • 危ないと感じたら、離れる。
  • 少し時間が経ってから、あらためて声をかける。

公的な案内の紹介

  • 東京都のパンフレットは、「不安な気持ちを理解しながら訴えをよく聞き、不安をやわらげるような対応をするとよいでしょう。」としています。
  • 国立長寿医療研究センター(看護部)の記事は、「焦らせたり、答えを急かしたりすると、不安や混乱を招いてしまいます。」と書いています。あわせて、短く、はっきり、具体的に話すこと、穏やかに目を見て話しかけることで、相手も対応しやすくなることを紹介しています。

声かけの言い換え表|つい出てしまう返しと、言い換えの例

つい出てしまう返しと、言い換えの例を並べます。表のすべての行は「例」です。

言いがちな返し言い換えの例
×「そんな言い方、ないでしょ」○「いまは少しつらいから、別の部屋にいるね。またあとで顔を出すよ」
×「盗ってないよ!」○「大事なものが見つからなくて、不安なんだね。一緒に探そう」
×「何度言ったらわかるの」○ 一度に1つだけ、短く具体的に。「お茶を飲もうか」
×「落ち着いて!」○「困っているんだね。ゆっくりで大丈夫」
×「そんなこと言ってないでしょ」○(正さずに)「そう感じたんだね。心配だったんだね」
×「どうしてそんなことを言うの」○「どこか痛いところや、気になることはある?」

上の言い換えは、すべて当ステーションが考えた例です。受診を嫌がる親への声かけはVol.40にあります。

受診・相談の目安|こんなことが重なったら

次のことは、「当てはまるから認知症のせい」と決めるためのものではありません。かかりつけ医などに相談するきっかけの目安です。診断や薬の処方は、医師が行います。

  • 急に怒りっぽさや暴言が目立ってきたとき。国立長寿医療研究センターの医療関係者向けの資料では、急に行動・心理症状が目立ってきたときは、せん妄の疑いもあり、薬の影響や体の病気、脳の血管の病気の可能性も考えて、診断や治療のできる専門の医療機関で対応することが望ましいと書かれています。
  • 体の不調や痛みがありそうなとき。痛みを訴えにくい認知症の方の痛みに気づく方法として、国立長寿医療研究センターの医師は、「行ったり来たりしている時、そわそわしている時は、少し痛い時です。」と書いています。痛みが原因と決めつけず、様子を伝えて相談してください。
  • 薬が変わった、増えたあと。同じセンターの薬剤部の記事は、高齢者全般について、「体調の変化がくすりの副作用によるものか、新しい病気によるものかの判断は非常に難しいです。」とし、かかりつけの医師や薬剤師に相談するよう勧めています。
  • 眠れない日が続くとき。不眠は、東京都が挙げる行動・心理症状の例のひとつです。眠れない様子と、怒りっぽさが重なっていないか、メモしておくと相談しやすくなります。

相談先は、かかりつけ医、認知症疾患医療センター、地域包括支援センターです。東京都は、認知症疾患医療センターについて、行動・心理症状の治療も含めて、地域の医療機関と連携して対応する、と案内しています。本人が受診を嫌がるときのつなぎ方はVol.40をご覧ください。

家族だけで抱えきれないと感じたとき|相談先と、ご家族自身を守ること

暴言を受け続けると、ご家族も心がすり減ります。国立長寿医療研究センターの看護部の記事は、「介護や支援を担う人が無理をしすぎてしまうと、心も体も疲れてしまいます。」と書いています。東京都のパンフレットも、ご家族自身を大切にするよう呼びかけています。「もう抱えきれない」と感じることは、責められることではありません。

相談先を3つ挙げます。

  1. 地域包括支援センター:府中市のページによると、認知症地域支援推進員が市内の各センターに1名ずつ配置されています。「認知症の方やその家族の相談支援を行います。」とあり、医療機関などの関係機関へのつなぎや連絡調整の支援も行うとされています。電話番号は地区ごとに違うため、府中市のページでお住まいの地区のセンターをご確認ください。
  2. 認知症疾患医療センター:東京都は、認知症に関する専門知識を持つ相談員(精神保健福祉士等)が、本人・家族・関係機関からの医療相談に対応し、状況に応じて適切な医療機関を紹介する、と案内しています。府中市の担当は東京都の一覧のページで確認できます。
  3. 東京都の認知症家族介護者ピア電話相談:認知症介護の経験のある相談員が対応します。電話は03-6380-8038、毎週月・木・土曜日の午前10時から午後3時まで(祝日・年末年始を除く)。対象は、都内の認知症のあるご家族を介護している方です。通話料はご負担ください。詳しくは東京都のページでご確認ください。

離れて休むことは、ご本人を見捨てることではありません。家族が共倒れにならないための選択肢はVol.53に、介護の疲れが強いときの考え方はVol.65にあります。離れて暮らす親の様子が気になるときはVol.63をご覧ください。

訪問看護にできること

府中よりそい訪問看護ステーションでは、ご本人の体調や様子の変化の聞き取り、主治医への報告(ご本人の同意のうえで、主治医や薬局と診療の情報を共有するしくみを使っています)、ご家族のご相談をお受けしています。国立長寿医療研究センターの医療関係者向けの資料では、服薬の管理や副作用の観察には、家族、薬剤師、訪問看護師など、多職種による支援が必要になると書かれています。診断や薬の処方は、医師が行います。暴言や怒りがなくなることを、お約束することはできません。訪問看護の日々の様子は、Vol.18とVol.27にあります。

ご相談は、電話(042-508-3434・受付は平日9:00〜18:00)またはお問い合わせページで受け付けています。ご本人が受診していなくても、ご家族だけで相談できます。初回のご相談は無料です。訪問できる地域は対応エリアでご確認いただけます。

よくあるご質問

親から暴言を言われたとき、言い返さないほうがよいのですか?

当ステーションの考えでは、言い返して正そうとするより、まず聞く姿勢で受け止め、危ないと感じたら離れることをお勧めします。東京都のパンフレットは、不安な気持ちを理解しながら訴えをよく聞くことを紹介しています。少し時間が経ってから、様子を主治医や相談先に伝えてください。

暴力をふるわれそうなど、身の危険を感じたらどうすればよいですか?

当ステーションの考えでは、その場を離れて安全を確保することが先です。たった今、被害に遭ったとき・目撃したときは110番、けがや急な体の不調は119番、警察に相談したいときは#9110、救急車を呼ぶか迷うときは#7119です。かかりつけ医や地域包括支援センターにも相談できます。

急に怒りっぽくなったのは、認知症が進んだからでしょうか?

原因は1つとは限りません。国立長寿医療研究センターの医療関係者向けの資料では、急に目立ってきたときは、せん妄や薬の影響、体の病気なども考えて、専門の医療機関で対応することが望ましいと書かれています。診断は医師が行います。早めにかかりつけ医へ相談してください。

本人が病院を嫌がるとき、家族だけで相談してもよいですか?

ご本人が受診していなくても、ご家族だけで相談できます。東京都のピア電話相談の相談内容の例にも、受診してもらうにはどうしたらよいか、が挙がっています。当ステーションでも、ご家族だけのご相談を受け付けています。初回は無料です。受診へのつなぎ方はVol.40にあります。

家族だけで抱えきれないと感じたら、どこに相談すればよいですか?

お住まいの地区の地域包括支援センター、認知症疾患医療センター、東京都の認知症家族介護者ピア電話相談(都内のご家族が対象・03-6380-8038・月・木・土の午前10時から午後3時)があります。一人で抱え込まず、早めに相談してください。当ステーションも、ご家族のご相談をお受けしています。

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出典

  • 東京都 とうきょう認知症ナビ「認知症とは?」(2026年10月15日閲覧):https://www.ninchishounavi.metro.tokyo.lg.jp/kisochishiki/ninchishou/
  • 東京都 とうきょう認知症ナビ「認知症に関するキーワード集」(2026年10月15日閲覧):https://www.ninchishounavi.metro.tokyo.lg.jp/kisochishiki/keyword/
  • 東京都「知って安心 認知症」パンフレット(2026年8月版)。PDFの頁=5・6(2026年10月15日閲覧):https://www.ninchishounavi.metro.tokyo.lg.jp/kisochishiki/pamphlet/
  • 東京都 とうきょう認知症ナビ「東京都認知症疾患医療センター」「同 一覧」(2026年10月15日閲覧):https://www.ninchishounavi.metro.tokyo.lg.jp/torikumi/iryoucenter/
  • 東京都 とうきょう認知症ナビ「認知症家族介護者へのピア電話相談」(2026年10月15日閲覧):https://www.ninchishounavi.metro.tokyo.lg.jp/soudan/pia/
  • 厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第78回)参考資料2-1「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」(令和元年6月20日)。PDFの頁=2(2026年10月15日閲覧):https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf
  • 国立長寿医療研究センター 健康長寿ナビ「認知症の方と関わるとき~大切な7つのポイント~」(2026年10月15日閲覧):https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/55.html
  • 国立長寿医療研究センター 健康長寿ナビ「認知症の人の痛みに気づく5つのポイント」(2026年10月15日閲覧):https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/19.html
  • 国立長寿医療研究センター 健康長寿ナビ「ポリファーマシーって知っていますか?」(2026年10月15日閲覧):https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/48.html
  • 国立長寿医療研究センター 病院レター第111号(2024年7月1日・医療関係者向け)(2026年10月15日閲覧):https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/111.html
  • 府中市「認知症地域支援推進員をご存知ですか」(最終更新日 2025年3月10日)(2026年10月15日閲覧):https://www.city.fuchu.tokyo.jp/kenko/korenokata/nintisyo/soudannsaki/suishinin.html
  • 警視庁 総合相談センター「相談ホットラインのご案内」(更新日 2026年10月6日)(2026年10月15日閲覧):https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/sodan/madoguchi/sogo.html
  • 東京消防庁「東京消防庁救急相談センター」(2026年10月15日閲覧):https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kyuu_adv/soudan-center.html

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