
認知症のご家族を自宅で介護している方へ。「疲れた」「少し休みたい」と感じることは、後ろめたいことではありません。この記事では、介護を一時的に代わってもらって家族が休む「レスパイトケア」という考え方と、介護保険で使えるサービスの種類・費用のめやす、そして訪問看護がその橋渡しとしてできることを、府中市の相談窓口とあわせて整理します。
「疲れた」と感じるのは、がんばってきた証拠です
2026年7月に公表された最新の国民生活基礎調査(令和7年・厚生労働省)では、介護が必要になった主な原因の第1位は認知症(要介護者の23.6%)でした。また、要介護3以上になると、同居して介護する家族の介護時間は「ほとんど終日」が最も多くなっています。
少し前の調査になりますが、平成28年の同調査では、同居で介護する家族の約7割(68.9%)が、日常生活で悩みやストレスを感じていると答えています。
認知症の介護は、食事や入浴の介助だけでなく「見守りの連続」という性質があります。目を離せない時間が長く、夜も気が休まらない。それが毎日続けば、疲れがたまるのは当然のことです。「疲れた」と感じるのは、弱いからではなく、それだけ長くがんばってきた証拠です。
レスパイトケアとは|「介護を代わってもらって、休む」という考え方
レスパイト(respite)は「休息」「小休止」を意味する言葉です。日本医療・病院管理学会の用語集では、レスパイトケアは「在宅でケアしている家族を癒やすため、一時的にケアを代替し、リフレッシュを図ってもらう家族支援サービス」と説明されています。
大切なポイントは、「レスパイトケア」という名前の制度やサービスがあるわけではない、ということです。実際には、ショートステイやデイサービスなど、介護保険の既存のサービスを組み合わせて「家族が休む時間」をつくっていきます。ですから、窓口で「レスパイトケアをください」と言う必要はなく、「介護を少し代わってもらって休みたい」と伝えれば大丈夫です。
レスパイトに使える主なサービス
介護保険のサービスのうち、家族の休息づくりによく使われるものを整理します。対象になる方(要支援・要介護の区分)がサービスごとに異なる点に注意してください。
ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)
施設に短期間宿泊して、食事・入浴などの支援や機能訓練を受けられるサービスです。厚生労働省の介護サービス情報公表システムでも「家族の介護の負担軽減などを目的として実施」と明記されています。対象は要支援1・2および要介護1から5の認定を受けた方で、連続した利用は30日までです。医療的なケアが必要な方向けには、医療機関や介護老人保健施設などが行う「短期入所療養介護」もあります。
デイサービス(通所介護)
日中、施設に通って食事・入浴・レクリエーションなどを受けられるサービスです。こちらも「家族の介護の負担軽減などを目的として実施」と公式に位置づけられています。対象は要介護1から5の方です(要支援の方は、市町村が行う総合事業の通所型サービスが受け皿になります)。
小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護
「通い」を中心に「宿泊」「訪問」を柔軟に組み合わせられるサービスです。同じ事業所のなじみのスタッフが対応するため、認知症の方でも環境の変化が少なく、結果として家族が休む時間をつくりやすい仕組みです。小規模多機能型は要支援1・2から、看護師の訪問も組み合わせられる看護小規模多機能型は要介護1から5の方が対象です。
「レスパイト入院」について
介護者の休息を目的とした短期入院を「レスパイト入院」と呼ぶことがありますが、これは制度上の正式な名称ではなく、一部の医療機関が独自に受け入れているものです。実施の有無・条件・期間は病院ごとに異なり、多くは医療的なケアが必要な方が対象です。気になる場合は、主治医や病院の相談窓口(ソーシャルワーカー)に確認してみてください。
費用のめやすと、使いはじめるまでの流れ
介護保険サービスの自己負担は、かかった費用の1割(所得によっては2割または3割)です。ショートステイなど宿泊を伴うサービスでは、これに加えて食費・滞在費・日常生活費などが実費でかかります。具体的な金額は施設の種類や居室のタイプによって異なるため、ケアマネジャーや施設に確認するのが確実です。
使いはじめるまでの流れは、次のようになります。
- すでに要介護認定を受けている方: 担当のケアマネジャーに「休む時間をつくりたい」と相談し、ケアプランに組み込んでもらう
- まだ認定を受けていない方: お住まいの地域包括支援センターまたは市の窓口で、要介護認定の申請から始める
「介護のことで手続きから考えるのがもうしんどい」という段階の方こそ、まず地域包括支援センターに電話してみてください。何から始めればよいかを一緒に整理してもらえます。
「本人に悪い」とためらう気持ちについて
レスパイトの利用をためらう理由で多いのが、「本人を預けるなんて申し訳ない」「見捨てるようで気が引ける」という罪悪感です。この気持ちは、ご本人を大切に思っているからこそ生まれる、自然な感情です。
ただ、介護は短距離走ではありません。介護する方が倒れてしまうと、ご本人の生活も続かなくなってしまいます。休むことは介護を投げ出すことではなく、介護を続けていくための準備です。
また、ご本人が環境の変化を嫌がって、サービスの利用を渋ることもあります。そのときに無理強いは禁物です。日帰りのデイサービスから短時間だけ試してみる、なじみの職員ができてから宿泊を検討する、など段階を踏む方法があります。ご本人が通院や受診を嫌がる場合の関わり方は、認知症かも、でも病院を嫌がる親に|受診につなげるために家族ができること【Vol.40】でも詳しく書いています。
訪問看護が「レスパイトの橋渡し」でできること
訪問看護は、ご本人の体調管理やケアのために利用するもの、というイメージが強いかもしれません。ただ実際には、訪問看護の運営基準では、「利用者又はその家族に対し、療養上必要な事項について、理解しやすいように指導又は説明を行う」ことが業務として位置づけられています。ご家族への介護方法の助言や相談も、訪問看護の仕事の一部です。
そのうえで、レスパイトとの関係で訪問看護ができることを挙げてみます。
- 訪問のたびに、ご本人だけでなく、介護しているご家族の疲れの様子にも目を配る
- 「休みたい」と言い出しにくい気持ちを、看護師との会話の中で言葉にできる場をつくる
- 疲れがたまっているサインに気づいたら、ケアマネジャーと連携して、ショートステイなどの利用の相談につなぐ
- ご本人がサービス利用に不安を抱いているときに、体調や気持ちの面から慣らし方を一緒に考える
当ステーションは、認知症診療を専門とする青栁先生(よりそいクリニック)と連携しながら、認知症ケアと精神科に特化した訪問看護を行っています。なお、要介護認定を受けた認知症の方の訪問看護は、原則として介護保険での利用になります。認知症の方への訪問看護で具体的に何をしているかは、認知症の人を、家でどう支える?【Vol.52】をご覧ください。
「疲れのサイン」を見逃さないでください
次のようなサインが続いているときは、疲れがかなりたまっている可能性があります。
- 夜、眠れない日が続いている。食欲が落ちている
- ささいなことでイライラしたり、涙が出たりする
- 自分の通院や体調不良を後回しにしている
- 人と会うのがおっくうで、相談する気力もわかない
思い当たる項目がある方は、限界まで走り続ける前に、休む段取りを先に立ててほしいのです。ご家族の限界のサインと「出口」の選択肢については、家族が「もう限界」と思ったとき【Vol.53】で詳しくまとめています。また、離れて暮らす親御さんの介護で悩んでいる方は、一人暮らしの親が認知症かも?【Vol.63】もあわせてどうぞ。
府中市の相談窓口
- 地域包括支援センター: 府中市内に11か所ある高齢者の総合相談窓口です。介護保険の申請やサービスの相談はまずこちらへ(担当地区が令和6年10月に再編されているため、お住まいの担当センターは市のホームページでご確認ください)
- 認知症家族介護者教室(オレンジサロン): 認知症のご家族を介護している方などを対象に府中市が開催しています。開催日程はお近くの地域包括支援センターへ
- 認知症の人と家族の会 電話相談: 0120-294-456(土・日・祝日を除く毎日 10時から15時。携帯電話からは050-5358-6578・通話料がかかります)
- 府中よりそい訪問看護ステーション: 042-508-3434(受付 9:00-18:00)。訪問看護のご相談のほか、「まずどこに相談すればいいか」の整理からでも構いません
まとめ|休むことも、介護の一部です
レスパイトケアは「特別な制度」ではなく、ショートステイやデイサービスなど身近なサービスを組み合わせて、介護する方の休む時間をつくる考え方です。「疲れた」と感じてから動くのではなく、疲れをためすぎる前に、休む段取りをケアの計画に組み込んでおく。それが、ご本人との暮らしを長く続けていくための現実的な方法だと、私たちは考えています。
府中よりそい訪問看護ステーションでは、ご本人のケアとあわせて、介護するご家族の相談にも対応しています。お問い合わせフォームまたは電話(042-508-3434・受付9:00-18:00)でお気軽にご相談ください。府中市外にお住まいの方は、対応エリアの確認ページもご利用いただけます。
よくあるご質問
Q1. 「レスパイトケア」という名前のサービスを申し込めばよいのですか?
いいえ。レスパイトケアという名前の制度・サービスはありません。ショートステイやデイサービスなど、介護保険の既存サービスを組み合わせて家族の休息をつくる考え方です。ケアマネジャーや地域包括支援センターに「介護を少し代わってもらって休みたい」と伝えれば、具体的なサービスを一緒に検討してもらえます。
Q2. ショートステイは何日まで泊まれますか?
介護保険での連続利用は30日までとされています。実際に何日利用するかは、ご本人の状態や介護の状況に応じてケアプランの中で決めていきます。1泊2日など短い利用から試すこともできます。
Q3. 費用はどのくらいかかりますか?
介護保険の自己負担は費用の1割(所得により2割または3割)で、ショートステイでは食費・滞在費などが別途実費になります。金額は施設の種類や居室のタイプで異なるため、ケアマネジャーまたは利用したい施設に確認するのが確実です。
Q4. 本人が嫌がる場合は使えませんか?
無理強いはおすすめしません。ただ、あきらめる必要もありません。日帰りのデイサービスを短時間から試す、環境の変化が少ない小規模多機能型を検討する、なじみの職員ができてから宿泊に進む、といった段階の踏み方があります。訪問看護が入っている場合は、ご本人の気持ちの揺れに寄り添いながら慣らし方を一緒に考えることもできます。
Q5. 認知症ではない家族の介護でも使えますか?
使えます。ショートステイは要支援1・2および要介護1から5の方、デイサービスは要介護1から5の方が、認知症かどうかに関わらず利用できます。まずは担当のケアマネジャーか地域包括支援センターにご相談ください。



