
片付けは、代わりにやってしまえば一日で終わります。ゴミ袋をまとめて、床が見えるようにして、窓を開ける。だからご家族の手は、つい先に動きます。
けれど、きれいになった部屋が数週間で元どおりになったとき、残るのは徒労感と「あれだけやったのに」という気持ちです。そしてその気持ちは、たいてい口には出せません。
この記事は、その往復をどこかで止めるために書いています。片付けを引き受けてくれる仕組みは、実は訪問看護の外にあります。制度の条文に何が書かれているのか、府中市ではどこに相談できるのかを、順にたどっていきます。
「部屋が片付かない」「ごみが出せない」という状態について
ひとくちに片付かないと言っても、ご家庭ごとに様子はまったく違います。床にものが積み上がっている。ごみ袋がまとまらないまま増えていく。分別が分からなくなって、収集日に出せないまま置いてある。洗っていない食器がそのままになっている。あるいは、部屋そのものは散らかっていないのに、郵便物だけが未開封で溜まっている。
共通しているのは、本人がその状態を望んでいるわけではない、という点です。多くの場合、ご本人も気にしています。気にしているのに手が動かない。そのずれが、周りからはいちばん見えにくいところです。
そしてもうひとつ。片付けは、入浴や食事と違って「一日休んでも困らない」ように見えます。だから後回しにされ、後回しにされた分だけ、あとで取り返すのが重くなります。ご家族が焦り始めるのは、たいていこの段階です。
片付けには、思っているより多くの判断が要ります
片付けは、外から見ると「散らかったものを元に戻すだけ」の作業です。しかし実際には、いくつもの判断が連続しています。これは何か。要るのか要らないのか。要るならどこに置くのか。要らないなら何ごみなのか。いつ出すのか。
気力が落ちているとき、この「決める」という作業そのものが重くなります。ものを一つ手に取るたびに判断を求められるので、始めた途端に疲れて座り込んでしまう、ということが起こります。
国立精神・神経医療研究センターは、うつ病について、意欲や興味の低下が症状として現れることを説明しています。また統合失調症については、意欲の低下や、身のまわりのことへの関心が薄れる状態が生じうるとしています。片付けという行為は、この「意欲」と「段取り」の両方を必要とするため、影響が出やすい場面のひとつです。
薬の影響で日中の眠気が強い時期や、眠れない日が続いて体力が落ちている時期も、同じように手が動かなくなります。うつ病の人を、家でどう支える?や統合失調症の人を、家でどう支える?もあわせてご覧ください。
ご家族からうかがうことがあるのは「昔はきれい好きだったのに」という言葉です。この「昔は」という部分が、実は大切な情報です。
もともと片付けが得意でなかったのか、それともある時期から変わったのか。変わったとしたら、いつごろからか。この違いは、後で主治医に伝えるときにそのまま役立ちます。
片付けは生活習慣の問題として語られやすく、だからこそ「気持ちの持ちよう」で説明されがちです。けれど、できていたことができなくなっているとき、そこには気持ち以外の理由があることが少なくありません。
部屋のどこを見ておくとよいか
次のような変化は、ご家庭で気づきやすいものです。どれか一つが当てはまるからどう、という性質のものではありませんが、いつごろからそうなったかを覚えておくと、相談のときに役立ちます。
- ごみ袋が部屋の中に溜まったままになっている
- 分別が分からなくなり、収集日に出せていない
- 郵便物や書類が、開封されないまま積まれている
- 洗濯物が、洗う前と洗った後のどちらも山になっている
- 以前は使っていた場所(食卓、洗面台など)がものに埋まって使えなくなっている
- 片付けの話をすると、強く拒まれるか、話題自体を避けられる
最後の一つは、ご本人が気にしている証拠であることが多いところです。どうでもよければ、怒る必要がありません。
「代わりに片付ける」がうまくいきにくい理由
ご家族が代わりに片付けると、その日は確かに片付きます。問題は、その後です。
ひとつは、どこに何があるか分からなくなることです。散らかっているように見えても、ご本人の中では位置が決まっていることがあります。それが動かされると、生活が回らなくなります。
もうひとつは、勝手に捨てられたという記憶が残ることです。一度その経験があると、次からは片付けの話そのものができなくなります。ご家族としては良かれと思っての行動が、結果として相談しにくい関係をつくってしまう。ここがいちばん惜しいところです。
とはいえ、生ごみが放置されて衛生上の問題が出ているようなときに、何もせず待つべきだという意味ではありません。待てる状態と、待たないほうがよい状態があります。
判断の線引きを一律に示すことはできませんが、次のようなことが起きているときは、片付けの相談というより生活の安全の相談として、早めに専門職に伝えていただくほうがよいと思います。
- 生ごみが放置されて、においや虫が出ている
- コンロや暖房器具のまわりに、燃えやすいものが積まれている
- 通り道がふさがって、転びそうになっている
- 近隣から苦情が来ている
- ご本人が、ものに埋もれて眠る場所を確保できていない
こうした場合でも、いきなり全部を片付ける必要はありません。まず火のまわりだけ、まず通り道だけ、というように場所を区切ると、ご本人も受け入れやすくなります。
制度には「代わりにやる」だけでなく「一緒にやる」が書かれています
ここは、あまり知られていないところだと思います。
介護保険の訪問介護には、ヘルパーが家事を代わりに行う「生活援助」があります。厚生労働省の通知(老計第10号)は、生活援助の「2-1 掃除」に、次の内容を挙げています。
○居室内やトイレ、卓上等の清掃
○ゴミ出し
○準備・後片づけ
これとは別に、同じ通知の身体介護には「1-6 自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」という区分があり、平成30年に次の内容が加わりました。
○利用者と一緒に手助けや声かけ及び見守りしながら行う掃除、整理整頓(安全確認の声かけ、疲労の確認を含む)
○ゴミの分別が分からない利用者と一緒に分別をしてゴミ出しのルールを理解してもらう又は思い出してもらうよう援助
つまり、片付けを引き受けてしまう形だけでなく、本人と一緒に手を動かす形が、制度の中に位置づけられているということです。ご家族が代わりにやってしまうと関係が難しくなりやすい場面で、第三者が一緒にやる形を選べる余地があります。
ただし同じ通知は、これらが「ケアプランに位置付けられたもの」であることを条件としています。希望すれば自動的に使えるわけではなく、ケアマネジャーとの相談を経て計画に位置づける必要があります。
訪問看護は、片付けを「できたか・できなかったか」では見ていません
精神科の訪問看護では、訪問のたびに記録を残します。その記録に何を書くかは、厚生労働省の通知「訪問看護計画書等の記載要領等について」(令和8年3月27日 保医発0327第10号)で定められています。精神科訪問看護記録書Ⅱ(参考様式4)について、通知はこう書いています。
精神科訪問看護に係る記録書Ⅱには、食生活・清潔・排泄・睡眠・生活リズム・部屋の整頓等、精神状態、服薬等の状況、作業・対人関係、実施した看護内容等
「部屋の整頓」は、この並びの中にあります。食生活や睡眠と同じ列に置かれている、ということです。
ここで大切なのは、記録の目的が採点ではないことです。片付いているかどうかを評価するために書いているのではなく、前回と比べてどう変わったかを残すために書いています。先週より新聞が積み上がっていれば、それは調子の変化を示すサインかもしれません。逆に、急に一気に片付いたことが意味を持つ場合もあります。
ご家庭でも同じことができます。うまく片付けさせようとするのではなく、いつごろから、どのあたりが、どう変わったかを覚えておく。それだけで、主治医や専門職に渡せる情報になります。
発達障害の特性による「片付けられない」は、少し違う角度の話です
子どものころからずっと片付けが苦手で、それが今も続いているという場合は、これまで書いてきた「ある時期から変わった」という話とは、少し見方が変わります。
ものの置き場所を決めることや、複数の作業を順番に進めることが苦手な特性がある場合、必要なのは調子を戻すことではなく、その人に合ったやり方を見つけることになります。収納を増やすより減らす、分別のルールを紙に貼っておく、といった工夫が効くこともあります。
詳しくは発達障害(おとなのASD・ADHD)の人を、家でどう支える?と大人の発達障害(ASD・ADHD)で訪問看護を受けるにはにまとめています。
掃除や片付けを頼める仕組みは、訪問看護とは別にあります
掃除や片付けそのものを担う仕組みは、いくつかあります。どれが使えるかは、年齢・介護保険の認定・障害福祉サービスの支給決定によって変わります。
介護保険の訪問介護(生活援助)には、先に挙げたとおり居室内の清掃とごみ出しが含まれます。ただし範囲には限りがあり、厚生労働省の通知(老企第36号、および老振第76号の別紙)は、日常的に行われる家事の範囲を超える行為として、大掃除、窓のガラス磨き、床のワックスがけ、家具の移動や模様替え、植木の手入れ等の園芸などを挙げています。年に一度の大掃除のような作業は、介護保険では引き受けられないということです。
障害福祉サービスの居宅介護(家事援助)にも、掃除は含まれます。障害者総合支援法の施行規則は、便宜の内容を「調理、洗濯及び掃除等の家事」と定めています。厚生労働省の通知(障障発0310第1号)は、単身の方、または同居する家族の障害・疾病・就労等の理由で家事を行うことが難しい方が利用できるとしています。
制度の範囲を超える部分については、厚生労働省の通知も、市町村の生活支援サービス、NPOなどの住民参加型サービス、ボランティアといった選択肢を挙げています。民間の家事支援サービスを使う方法もあります。費用や引き受けてもらえる範囲は事業者ごとに違いますので、ケアマネジャーや相談支援専門員に確認してみてください。ご参考まで。
府中市で使える窓口と、ごみの費用のこと
府中市には、片付けそのものを名指しした窓口はありませんが、暮らし全体の相談を受けている窓口があります。
- 地域包括支援センター(おおむね65歳以上の方とそのご家族/市内11センター/訪問による相談も可能・相談無料)
- こころの健康相談(健康推進課成人保健係・保健センター 042-368-6511/平日8時30分から17時)
- 地域生活支援センタープラザ(主に精神障害のある方やそのご家族 042-358-2288)
また、介護保険の認定を受けていない高齢の方には、市の生活援助員の派遣があります。市は、炊事・洗濯・掃除等の身のまわりの家事を、派遣された生活援助員が「ご本人とともに行います」と説明しています。費用の1割はご本人の負担です。受付は地域包括支援センター、問い合わせは介護保険課介護サービス係(042-335-4470)です。ただし介護保険の認定を受けている方は、原則として対象になりません。
片付けを進めると、必ず出てくるのが粗大ごみの費用です。府中市には粗大ごみ処理手数料の減免があり、対象世帯のひとつとして「精神障害者保健福祉手帳1級若しくは2級の交付を受けている方があり、全員が市民税非課税である世帯」が挙げられています。生活保護受給世帯、児童扶養手当を受けている世帯なども対象です。
手続きは、先に府中市粗大ごみコールセンター(03-6424-4645)に電話して収集の予約をしたうえで、市役所資源循環推進課(午前8時半から午後5時)で申請します。期限は収集日の前日まで、前日が閉庁日の場合は直前の開庁日までです。ご本人が申請できない場合は、代理の方が申請することもできます。
あわせて、粗大ごみを家の中から運び出してもらえる宅内収集という仕組みもあります。ただしこちらは減免とは対象が異なり、65歳以上の方、要介護認定を受けた方、身体障害者手帳1級もしくは2級の交付を受けた方のみで構成される世帯が対象です。精神障害者保健福祉手帳はこの対象に含まれていません。1回の申し込みで原則3点まで、同一世帯で同一年度内2回までという制限もあります。二つは別の制度ですので、窓口で確認してから進めてください。
診察の短い時間で、何を伝えるか
片付けの話は、説明を始めると長くなりがちです。次の順で伝えると、短く済みます。
- いつごろから(半年前から、退院してから、など)
- どこが(台所だけ、部屋全体、ごみ出しだけ、など)
- 生活にどう影響しているか(食卓が使えない、通り道がふさがっている、など)
- 本人の反応(気にしている、話題を避ける、手伝いを断る、など)
写真を撮って見せるという方法もありますが、ご本人に無断で撮ると関係を損ねます。撮るなら、撮ってよいか確認してからにしてください。
私たちが、片付けとどう関わるか
訪問看護は、法律上「療養上の世話又は必要な診療の補助」を行うサービスです。家事の代行そのものを目的としたサービスではなく、実際にどこまで行うかは、主治医の指示と訪問看護計画書によって決まります。
そのうえで、片付けに関して私たちができるのは、おおむね次のようなことです。
- 部屋の様子や生活の変化を、訪問のたびに記録に残す
- 変化があったときに、主治医へ伝える
- 火のまわりや通り道など、安全に関わる部分について一緒に考える
- ヘルパーや市の窓口など、片付けを担える仕組みにつなぐ
- ご本人が動ける日に、無理のない範囲を一緒に決める
逆に、訪問看護が入れば部屋が片付くとお約束することはできません。片付くかどうかは、ご本人の調子と、周りの体制と、時間の問題だからです。私たちにできるのは、片付けを目標にするのではなく、片付かない状態が続いても暮らしが立ち行くように整えていくことだと考えています。
訪問看護ステーションは、それぞれ得意な分野や体制が違います。精神科を中心にしているところ、リハビリの職種が多いところ、24時間の体制があるところ。どこがよいかは事業所の優劣ではなく、その方の状況との相性で決まります。
私たちが合わないこともあります。ご家族との距離の取り方ひとつでも、合う合わないは生まれます。ほかの事業所も見比べたうえで選んでいただくのがよいと思いますし、そのほうがあとで無理が出ません。事業所を探す方法は、ケアマネジャー、相談支援専門員、市の窓口、主治医のいずれからでも相談できます。
片付かない部屋と暮らす、ご家族のこと
片付かない部屋は、毎日目に入ります。食事や入浴と違って、視界から消えません。だから、ご家族の消耗は静かに積み重なります。
そして多くの場合、ご家族は誰にも言えていません。人を家に呼べなくなり、呼べないから相談もしにくくなる。この閉じ方が、この困りごとのいちばんつらいところだと思います。
ご本人の相談先とは別に、ご家族自身の相談先を持っておいてよいと思います。上に挙げた市の窓口は、ご家族からの相談も受けています。介護に疲れたと感じたときにもあわせてご覧ください。
よくあるご質問
片付けられないのは、性格の問題ですか、それとも症状ですか
どちらか一方に決められるものではありません。もともと片付けが得意でない方もいますし、ある時期から急にできなくなる方もいます。大切なのは「いつごろから変わったか」です。以前はできていたことができなくなっている場合は、体調や気分の変化が関係している可能性がありますので、主治医にお伝えください。
本人に代わって、家族が片付けてしまってもよいのでしょうか
衛生や安全に関わる場合を除いて、できれば一声かけてからのほうがよいと思います。散らかって見えても、ご本人の中では置き場所が決まっていることがありますし、勝手に捨てられたという経験が残ると、次から片付けの話ができなくなります。急ぐ必要があるときは、範囲を区切って「ここだけ」と伝えてから進めてみてください。
ごみの分別ができず、収集日にも出せていません。どうすればいいですか
介護保険の訪問介護では、生活援助としてごみ出しを頼めます。また、分別が分からない方と一緒に分別をして、ごみ出しのルールを思い出してもらう関わりも、身体介護の見守り的援助として通知に位置づけられています。いずれもケアプランに位置づける必要がありますので、まずはケアマネジャーにご相談ください。介護保険を使っていない場合は、市の窓口や相談支援専門員が入口になります。
粗大ごみの費用が心配です。安くなる仕組みはありますか
府中市には粗大ごみ処理手数料の減免があります。精神障害者保健福祉手帳1級もしくは2級の方がいて、世帯全員が市民税非課税である世帯などが対象です。先に粗大ごみコールセンター(03-6424-4645)で収集を予約し、市役所資源循環推進課で申請してください。期限は収集日の前日まで(前日が閉庁日の場合は直前の開庁日まで)です。家の中から運び出してもらう宅内収集は対象の条件が異なりますので、あわせて窓口でご確認ください。
訪問看護は、部屋の片付けや掃除をしてくれますか
訪問看護は「療養上の世話又は必要な診療の補助」を行うサービスで、家事の代行そのものを目的としたものではありません。実際にどこまで行うかは主治医の指示と訪問看護計画書によって決まります。掃除や片付けを継続的に頼みたい場合は、介護保険の訪問介護や障害福祉サービスの居宅介護が受け皿になりますので、ケアマネジャーや市の窓口にご相談ください。
参考にした資料
- 厚生労働省「訪問看護計画書等の記載要領等について」(令和8年3月27日 保医発0327第10号)
- 厚生労働省「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」(平成12年3月17日 老計第10号。現行の別紙は平成30年3月30日 老振発0330第2号による改正後のもの)
- 厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」(平成12年3月1日 老企第36号)
- 厚生労働省「指定訪問介護事業所の事業運営の取扱等について」(平成12年11月16日 老振第76号)
- 厚生労働省「居宅介護(家事援助)の適切な実施について」(平成28年3月10日 障障発0310第1号)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則 第1条の3
- 介護保険法 第8条第4項/健康保険法 第88条第1項
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」(うつ病、統合失調症)
- 府中市「粗大ごみ処理手数料の減免申請」「粗大ごみ宅内収集(運び出し)」「地域包括支援センター」「生活援助員の派遣」「こころの健康」「地域生活支援センタープラザ」
おわりに
片付かない部屋を前にすると、どうしても「早く何とかしなければ」という気持ちが先に立ちます。けれど、片付けは結果であって、原因ではありません。手が動かない理由のほうが先にあります。
まずは、いつごろから、どこが、どう変わったかを覚えておくところからで十分です。そこから先は、ケアマネジャーや市の窓口、主治医、訪問看護といった手が使えます。
府中よりそい訪問看護ステーションでは、精神疾患のある方とご家族からのご相談をお受けしています。ご利用をお決めになっていない段階のお問い合わせでも構いません。お問い合わせ、対応している地域は対応エリアをご覧ください。電話は042-508-3434です。



