
「気づいたら口座のお金がなくなっている」「督促状が何通も届いていた」。精神疾患のあるご家族と暮らしていて、お金のことで困っているというご相談をいただくことがあります。この記事では、なぜお金の使い方が変わることがあるのか、家族がどこまで手を出してよいのか、そして本人と家族以外に頼れる公的な仕組みには何があるのかを整理しました。
「お金の使い方が心配」というご相談を、私たちもいただくことがあります
お金の相談は、かたちがひとつではありません。生活費が月の半ばでなくなってしまう。通販の箱が届き続ける。公共料金が止まってしまった。年金が入った日に使い切ってしまう。あるいは、家族が立て替えた金額がふくらんで、言い出せなくなっている。
どれも、ご本人を責めたいわけではないのに、放っておくと暮らしが立ち行かなくなるという点が共通しています。そして多くの場合、ご家族はすでに長いあいだ、ひとりで肩代わりをされています。お金の管理は、本来ひとつの家庭の中だけで抱えるものではなく、公的な仕組みが用意されている領域です。
なぜ、浪費や支払い忘れが起きるのか
お金の使い方が変わる背景は、ひとつではありません。ここでは一般的に説明されている考え方を並べます。ご本人に当てはまるかどうかは、主治医が診察のなかで判断することです。
気分が高まっている時期には、ふだんならしない大きな買い物や、次々と契約を結ぶといった行動が出ることがあります。反対に気力が落ちている時期には、請求書を開ける、金額を確かめる、期限までに振り込むという一連の段取りそのものが重くなり、支払いが後回しになっていきます。前者は「使いすぎ」に見え、後者は「だらしない」に見えますが、どちらも性格の問題として片づけられるものではありません。
見落とされやすいのが「段取りを組み立てる力」です。買い物そのものはできても、今月いくら使えるかを見積もり、残りの日数に配分し、固定費を先に取り分けておく作業は、複数のことを同時に頭に置く必要があります。ここが難しくなっているとき、外からは「無駄遣い」としか見えません。
「浪費している」と決めつける前に、まず確かめたいこと
お金のことでご相談をいただいたとき、私たちがまずうかがうのは、お金以外の場面がどうなっているかです。
食事はとれているか。眠れているか。部屋の様子は変わっていないか。着替えや洗濯はどうか。お金の使い方だけが単独で変わっているのか、それとも生活全体が同じ時期から変わってきているのか。ここが分かれ目になります。
生活の複数の場面が同じ時期から変わっているときは、お金の問題としてではなく体調の変化として主治医に伝えていただくほうが早いことがあります。逆に、ほかの場面は落ち着いているのにお金の管理だけが難しいこともあります。その場合は、後半でご紹介する制度のほうが役に立つかもしれません。どちらなのかをご家族だけで見分ける必要はありません。気づいたことをそのまま伝えていただければ十分だと考えています。
家族が「つい」やってしまいがちな対応と、その難しさ
お金の心配が続くと、通帳やカードを預かる、財布を管理する、口座を分けるといった対応を考えることになります。実際にそうしているご家庭もあります。
この方法には、はっきりした利点があります。生活費が守られ、公共料金が止まる事態を避けられます。一方で、ご本人にとっては自分のお金を自分で使う権利を家族に預けることになります。納得のうえで預けているのか、押し切られたと感じているのかで、その後の関係はかなり変わります。
また、家族が管理を担うと、その家族が体調を崩したときやいなくなったときに、支える仕組みが一度に途切れます。どちらがよいと一律に申し上げることはできませんが、家族が管理する以外の選択肢があることは知っておいていただきたいと思っています。
精神科訪問看護では「金銭管理」を毎回見ています。ただし、代わりに管理はしません
意外に思われることがあるのですが、精神科訪問看護には、金銭管理の様子を見て記録することが制度上組み込まれています。
厚生労働省の通知「訪問看護計画書等の記載要領等について」(令和8年3月27日 保医発0327第10号)に定められた参考様式のうち、精神科訪問看護記録書Iには「日常生活等の状況」という欄があります。この欄には、食生活、清潔、排泄、睡眠、生活のリズム、部屋の整頓、作業等の状況、対人関係、服薬状況といった項目とともに、金銭管理が置かれています。それぞれについて「援助の要否」を記載する様式です。
つまり、お金のことは訪問看護の対象外ではなく、生活の状況として見ることが国の様式に位置づけられています。訪問のなかで、支払いが滞っていないか、生活費が月末まで持ちそうかといったことに目を向けるのは、そのためです。
ただし、ここははっきりお伝えします。訪問看護師が、ご本人に代わってお金を預かったり、支払いや振込を代わりに行ったりすることはありません。それは訪問看護の役割ではなく、後述する別の制度が担う領域です。私たちにできるのは、変化に気づくこと、ご本人と一緒に考えること、必要な窓口につなぐことまでです。それ以上をお約束することはできません。
地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)という仕組み
お金の管理を、家族以外の誰かに手伝ってもらう仕組みがあります。全国的には「日常生活自立支援事業」と呼ばれ、社会福祉協議会が行っています。
根拠は社会福祉法です。同法第2条第3項第12号は、この事業を「福祉サービス利用援助事業」として、次のように定めています。
精神上の理由により日常生活を営むのに支障がある者に対して、無料又は低額な料金で、福祉サービス(前項各号及び前各号の事業において提供されるものに限る。以下この号において同じ。)の利用に関し相談に応じ、及び助言を行い、並びに福祉サービスの提供を受けるために必要な手続又は福祉サービスの利用に要する費用の支払に関する便宜を供与することその他の福祉サービスの適切な利用のための一連の援助を一体的に行う事業をいう。
また同法第81条は、都道府県社会福祉協議会が市町村社会福祉協議会などと協力し、区域内にあまねくこの事業が実施されるために必要な事業を行うものとしています。
条文にあるとおり、支払いに関する手伝いがこの事業に含まれています。日常的な生活費の出し入れを一緒に行う、通帳を預かるといった支援が実際に行われています。ただし対象は「精神上の理由により日常生活を営むのに支障がある者」とされており、誰でも申し込めば使えるわけではありません。使えるかどうかは窓口での相談のなかで決まっていきます。
成年後見制度という選択肢(後見・保佐・補助の3つ)
判断能力がより低下している場合に用意されているのが成年後見制度です。民法に定めがあり、程度に応じて3つに分かれています。
民法第7条は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者について、家庭裁判所が後見開始の審判をすることができると定めています。第11条はその能力が著しく不十分である者について保佐開始の審判を、第15条はその能力が不十分である者について補助開始の審判を、それぞれ定めています。能力を欠く常況にあるほうから順に、後見、保佐、補助という段階です。
家族にとって実際的なのは、誰が家庭裁判所に請求できるかです。民法第7条は、請求できる人として「本人、配偶者、四親等内の親族」などを挙げています。ご本人が自分から動けない状態でも、家族の側から手続きを始めることができます。
どの類型に当たるかは家庭裁判所が審判で決めることであり、この記事で判断することはできません。手続きには時間がかかり、費用も生じます。それでも、家族がひとりで抱え続ける以外の道があるという意味で、選択肢に入れておく価値のある制度だと考えています。
障害年金という選択肢(生活費の下支え)
お金が足りないという相談のなかには、管理の問題ではなく、そもそも収入が足りていないという場合があります。精神疾患も障害年金の対象になりうることは、あまり知られていません。
国民年金法第30条は、障害基礎年金について、傷病により初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(初診日)に一定の要件に該当した人が、障害認定日において政令で定める障害の状態にあるときに支給すると定めています。保険料の納付要件もあわせて定められています。
大切なのは、「初診日」がいつなのかが手続き上の要になる点です。何年も前の受診が初診日になることもあり、当時の医療機関に記録を求める場合があります。金額や等級については、年度によって変わり個別の審査によって決まるため、この記事では触れません。年金事務所または市区町村の国民年金の窓口でご確認いただくことになります。
どうしても生活が立ち行かないとき
制度の手続きには時間がかかります。今日明日の食費がないという状況では間に合いません。
その場合の最後の下支えが生活保護です。生活保護法第1条は、この法律の目的を、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することと定めています(「基き」は条文の表記のままです)。窓口は市の福祉事務所です。府中市では生活福祉課が生活保護と生活困窮者自立支援事業を担当しており、相談の段階でも受け付けています。
訪問看護の利用料や自己負担が心配な場合は、また別の話です
ここまでは、ご本人の生活費や金銭管理の話でした。もし、お探しだったのが「訪問看護そのものにいくらかかるのか」であれば、それは別の話になります。混同されやすいところなので、切り分けておきます。
訪問看護の料金の考え方は精神科訪問看護の料金はいくら?|1回いくら・月いくら・0円になる方も【Vol.48】にまとめています。自己負担そのものを下げる公的な仕組みについては自立支援医療とは?精神科訪問看護で月の自己負担を下げる仕組み【Vol.33】を、おおよその金額をその場で確かめたい場合は精神科訪問看護の自己負担額はいくら?その場で概算できる「計算ツール」【Vol.57】をご覧ください。
府中市で相談できる窓口
府中市にお住まいの場合の窓口を挙げます。いずれも公表されている情報です。
権利擁護センターふちゅう(府中市社会福祉協議会)。府中市府中町1-30 府中市立ふれあい会館2階、電話042-360-3900。府中市では日常生活自立支援事業にあたる仕組みが「地域福祉権利擁護事業(福祉サービス利用支援事業)」という名称で案内されており、成年後見制度利用支援もあわせて扱われています。お金の管理の相談は、まずここが入口になります。
府中年金事務所。府中市府中町2-12-2、電話042-361-1011。受付は月曜から金曜の午前8時30分から午後5時15分で、週の初めの開所日は午後7時まで、第2土曜日は午前9時30分から午後4時まで相談を受け付けています。なお日本年金機構は、個人の相談は全国どこの年金事務所でも受けられるとしています。
府中市 生活福祉課。生活保護と生活困窮者自立支援事業の窓口です。受付は月曜から金曜の午前8時30分から午後5時(祝日・年末年始を除く)です。
成年後見の申立て先は家庭裁判所です。裁判所が公表している東京都内の管轄区域表では、府中市は東京地方・家庭裁判所立川支部の区域とされています。
お金をめぐって、家族の間で意見が割れるとき
実際のご相談で難しいのは、制度そのものよりも家族の間で意見がそろわないことです。
立て替えを続けてきた人と、離れて暮らしていて事情を知らなかった人とでは、見えている景色が違います。「そこまでする必要はない」と言われた側は、これまでの負担が数えられていないように感じます。反対に、途中から関わることになった側にも、急に重い判断を求められる戸惑いがあります。きょうだいの間で、誰がどこまで負うのかがはっきりしないまま時間が過ぎている、というお話もうかがいます。
この記事で、誰がどう負担すべきかを決めることはできません。ただ、第三者が入る制度を使うことには、お金の流れが記録として残り、「誰かが勝手にやっている」という疑いが生まれにくくなるという側面もあります。家族の間の話し合いを、制度の側から支える面があるということです。
ご家族自身が消耗しきってしまう前に、という点についてはご家族のしんどさを、軽くする|認知の転換・セルフケア・SOSの出し先【Vol.36】と家族が「もう限界」と思ったとき|共倒れしないために知っておきたい選択肢【Vol.53】にも書いています。
よくあるご質問
訪問看護師が、本人の代わりに支払いや振込をしてくれますか
いたしません。訪問看護は金銭管理の状況を見て記録し、必要な窓口につなぐところまでを担います。お金を預かる、代わりに支払うといった支援は、社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業や、成年後見制度が担う領域です。
日常生活自立支援事業は、誰でも利用できますか
どなたでも使えるわけではありません。社会福祉法では、対象を「精神上の理由により日常生活を営むのに支障がある者」と定めています。実際に使えるかどうかは、社会福祉協議会の窓口での相談と確認を経て決まります。
成年後見人をつけると、本人はお金を自由に使えなくなりますか
一律にそうなるとは申し上げられません。民法では判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つが定められており、どの類型になるか、どこまでを後見人等が扱うかは家庭裁判所の審判で決まります。ご本人の状況によって結論が変わりますので、家庭裁判所や権利擁護センターでご確認ください。
障害年金はいくら受け取れますか
この記事では金額を申し上げられません。年度によって変わり、等級の判定も個別の審査によります。国民年金法では初診日と障害認定日、保険料の納付要件が定められています。ご自身の場合にどうなるかは、年金事務所または市区町村の国民年金の窓口でご確認いただくことになります。
本人がまだ受診していなくても、家族だけでお金のことを相談できますか
ご相談いただけます。当ステーションでも、ご本人が受診していない段階でご家族だけでのご相談を承っています。初回のご相談は無料です。進め方については精神科訪問看護は家族だけで相談できる?本人が受診していないときの進め方【Vol.61】にまとめています。
参考にした資料
- 厚生労働省「訪問看護計画書等の記載要領等について」(令和8年3月27日 保医発0327第10号)参考様式3 精神科訪問看護記録書I
- 社会福祉法 第2条第3項第12号、第81条(e-Gov法令検索)
- 民法 第7条、第11条、第15条(e-Gov法令検索)
- 国民年金法 第30条(e-Gov法令検索)
- 生活保護法 第1条(e-Gov法令検索)
- 府中市「権利擁護センターふちゅう」、府中市「生活福祉課」
- 日本年金機構「府中年金事務所」
- 裁判所「東京都内の管轄区域表」
おわりに
お金のことは、家族の中でいちばん言い出しにくい話題だと思います。相談に来られる方の多くが、かなり長く抱えてから話してくださいます。
訪問看護でできることには限りがあります。得意な分野や体制は事業所ごとに違いますし、私たちが合わないこともあります。ほかの事業所や社会福祉協議会、地域の相談窓口も見比べたうえで、ご本人とご家族に合うところを選んでいただくのがよいと思っています。
府中よりそい訪問看護ステーションでは、精神科訪問看護を行っています。対応エリアをご確認のうえ、お問い合わせからご連絡ください。初回のご相談は無料で、交通費のご負担もありません。ご参考まで。



