
「毎年この時期になると、どうも様子がちがう」。夏の終わりから秋にかけて、精神疾患のあるご家族について、そうしたご相談をいただくことがあります。
朝、起きてこない日が増えた。食事の量が減った。口数が少なくなった。夏の間はなんとか保てていたものが、涼しくなるにつれて崩れてきたように見える。けれども本人に聞いても「別に」としか返ってこない。この記事では、季節の変わり目に調子が崩れることをどう考えればよいのか、家族に何ができて何をしないほうがよいのか、どこから専門職に相談してよいのかを整理しました。
季節の変わり目に崩れるのは、気のせいなのか
ご家族からよくうかがうのは「毎年この時期だから、気のせいかもしれない」という言葉です。同時に「でも去年もおととしも同じだった」ともおっしゃいます。この二つは矛盾していません。
結論から書くと、気分の落ち込みが季節と結びついて繰り返される型は、国際的な診断の分類のなかに位置づけられています。つまり「毎年この時期に崩れる」という家族の観察は、医療の側でも意味のある情報として扱われます。次の見出しで、その中身を確認します。
ただし、そこから先には注意も必要です。「季節だから」で片づけてしまうと、本当は別の理由で起きている変化を見落とすことがあります。実は診断の側にも、まさにその注意書きが書かれています。
秋に不調が出やすいと言われる理由|日照時間・寒暖差・夏の疲れ
秋口に相談が増える背景として、ご家族からよく挙がるのは次の三つです。いずれも「これが原因だ」と言い切れる性質のものではありませんが、生活のなかで実際に起きている変化です。
一つめは、日が短くなっていく方向の変化です。夏至を過ぎたあとの日照時間は少しずつ減り、9月から10月にかけては朝晩の暗さをはっきり感じるようになります。朝に光を浴びる時間が減ると、起きる時刻が後ろにずれやすくなります。
二つめは、寒暖差です。日中は暑いのに朝晩は冷える時期が続くと、衣類や寝具の調整が追いつかず、眠りが浅くなることがあります。
三つめは、夏の疲れの持ち越しです。暑さのなかで食事や睡眠が崩れていた場合、その影響は涼しくなってから表に出てくることがあります。夏の時期に気をつけたいことは、夏場の注意点をまとめた記事でくわしく書いています。
なお、気圧や湿度の影響については、梅雨の時期の気圧や日照の話で別に取り上げています。この記事では、秋に向かって日が短くなっていく変化のほうを中心に書いています。
「季節性」は診断のうえでどう位置づけられているか
世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類の最新版であるICD-11では、反復性うつ病性障害(6A71)に含まれるものとして、季節性のうつ病性障害が挙げられています。
さらにICD-11には、「気分エピソードの発症に季節性のパターンを伴う」という特定用語(6A80.4)が用意されています。これは、うつ病エピソードの始まり方とおさまり方に規則的な季節のパターンがある場合に付けられるもので、エピソードの大多数がその季節のパターンに対応していることが要件とされています。
ここで大切なのは、同じ項目に次の注意が明記されていることです。季節性のパターンは、たまたまその季節と重なっただけで実際には毎年その時期に起きる心理的なストレス要因によるエピソードとは、区別されなければならないとされています。分類のなかであえて挙げられている例は、季節によって仕事がなくなる状況です。
つまり、医療の側でも「毎年この時期だから季節のせい」とは考えません。その時期に何が起きているのかを見たうえで、季節のパターンなのかどうかを判断します。ご家族が「毎年この時期」と気づいたときにできるいちばん役に立つことは、様子を見て済ませることではなく、いつから・どんなふうに・去年はどうだったかを記録して主治医に渡すことです。
なお、季節の変わり目が精神疾患を悪化させると言い切れる根拠は、ここにはありません。ICD-11が示しているのは「季節のパターンを示す型がある」ということであって、季節が原因だということではありません。うつ病そのものの基礎的なことは、うつ病そのものの基礎知識をまとめた記事をご覧ください。
家族が気づきやすいサイン
ご本人は「別に」「大丈夫」とおっしゃることが多く、気分そのものを言葉で聞き出すのは簡単ではありません。かわりに、生活のなかで目に見える変化のほうが手がかりになります。
- 起きてくる時刻が、少しずつ後ろにずれてきた
- 食事の量が減った、または決まったものしか食べなくなった
- 入浴や着替えの間隔があいてきた
- 出かける予定を、当日になって取りやめることが増えた
- 返事が短くなった、連絡への返信が遅くなった
- 好きだったことに手をつけなくなった
眠りが浅い・眠れない状態が続いている場合の考え方は、眠れない夜が続く場合の対処にまとめています。起きる時刻と寝る時刻が大きく入れ替わってきた場合は、起きる・寝るの時間が崩れてきた場合もあわせてご覧ください。
「気のせい」と言いたくなるとき
ご家族が「気のせいかもしれない」とおっしゃるとき、その裏側には、そう思いたい気持ちがあることも少なくありません。大ごとにしたくない。本人を傷つけたくない。去年もこの時期を越えられたのだから、今年も越えられるはずだ。どれも自然な気持ちです。
ただ、その気持ちのまま「がんばって」と伝えると、ご本人には届きにくくなります。すでにがんばっている状態のときに、もっとがんばれと言われたように受け取られることがあるためです。
お伝えしやすいのは、評価ではなく観察のほうです。「最近、朝がしんどそうに見えるけど、どう」。「去年もこの時期しんどかったよね」。ご家族が見ている事実をそのまま言葉にすると、ご本人も否定せずに答えやすくなります。
受診のタイミングをどう考えるか
すでに診断があり、通院している場合
次の予約を待つか、早めに受診するかで迷われることが多い場面です。判断の目安としては、生活のどこが崩れているかを見ていただくとよいと考えています。食事がとれていない、眠れない日が続いている、服薬が飛びはじめている、外に出られなくなっているといった状態が重なっているときは、次の予約を待たずに医療機関へご連絡いただくほうが安全です。
今回はじめて気づいた・まだ受診していない場合
どこに相談すればよいか分からないという段階でも、相談先はあります。市区町村の保健センターや保健所、精神保健福祉センターでは、ご本人が受診していない段階のご家族からの相談を受け付けています。かかりつけの内科がある場合は、そこから精神科・心療内科を紹介してもらう流れもあります。
当ステーションでも、迷っている段階でのお問い合わせをお受けしています。初回のご相談は無料です。訪問看護をご利用いただくかどうかは、お話をうかがってから一緒に考えます。
季節の変わり目の体調変化を、主治医にどう伝えるか
診察の時間は限られており、ご本人は診察室では「変わりないです」とおっしゃることがよくあります。悪く見せたくない、心配をかけたくないという気持ちが働くためです。そこで役に立つのが、ご家族が見ている事実です。
お伝えいただくとよいのは、次の四つです。
- いつから変化に気づいたか(「8月の終わりごろから」など、時期がわかる形で)
- 何が変わったか(起床時刻・食事・入浴・外出・口数など、行動で)
- どのくらい続いているか(「2週間ほど」など)
- 去年・おととしの同じ時期はどうだったか
四つめは、季節のパターンがあるかどうかを主治医が判断するうえで意味のある情報です。前の見出しで書いたとおり、規則的な季節のパターンなのか、その時期特有の出来事によるものなのかは区別して考えられます。ご家族しか知らない「去年はどうだったか」は、そこを分けるための材料になります。
メモは長い文章でなくてかまいません。日付と、その日に気づいたことを一行ずつ書いたもので十分です。お薬の内容や量の判断は主治医が行いますので、ご家族からは事実をお伝えいただければと考えています。
秋の過ごし方の工夫は、本人のペースで
ご家庭でできることもありますが、いずれも「やらせる」形にすると逆に負担になります。ご本人ができそうなものだけを、できる日にというくらいで十分です。
- 朝、カーテンを開ける。起こすためではなく、部屋を明るくするだけでもかまいません
- 予定を詰めない。秋は行事が増える時期です。参加するかどうかは直前に決められる形にしておくと、負担が減ります
- 寝具と衣類を先に替えておく。朝晩の冷えは、本人が気づく前に眠りへ影響することがあります
- 食べられるものを置いておく。食事の形を整えることより、まず量が確保できることを優先していただくほうが現実的です
うまくいかない日があっても、それは工夫が足りなかったからではありません。調子の波は、こちらの努力とは別に動きます。
ご家族自身も、秋に消耗していませんか
季節の変わり目に体調を崩すのは、ご本人だけとは限りません。夏の疲れも、寒暖差も、ご家族にも同じようにかかっています。そのうえで見守りが続くと、気づかないうちに削られていきます。
「自分が支えなければ」と抱えこむほど、相談が遅れます。ご家族が倒れてしまうと、いちばん困るのはご本人です。ご家族の消耗については、休職中のご家族向けの記事でもくわしく取り上げています。
訪問看護は、季節の変わり目の見守りに何ができるか
精神科訪問看護では、看護師がご自宅にうかがい、生活の様子を継続して見ていきます。季節の変わり目に関して申し上げると、できることは主に三つです。
一つめは、変化に気づくことです。定期的にうかがっていると、前回との違いが見えます。ご家族が「気のせいかもしれない」と迷う部分について、第三者の目を足すことができます。
二つめは、主治医への報告です。訪問で確認した生活の状況は、主治医へ報告します。診察室では出てこない情報が届くことで、判断の材料が増えます。
三つめは、ご家族の相談先になることです。ご本人への関わり方について迷ったときに、その場で一緒に考えることができます。
訪問看護の利用は、主治医が必要と判断することが出発点になります。当ステーションの対応エリアはこちらでご確認いただけます。交通費のご負担はいただいていません。
府中市で相談できる窓口
状況によって、相談先は変わります。
- 命に関わる危険があるとき: 119番
- 救急車を呼ぶか迷うとき: 救急相談センター #7119(多摩地域の一部からは 042-521-2323)
- 夜間・休日に精神科の相談先を探したいとき: 東京都精神科救急医療情報センター「ひまわり」 03-5272-0303
- 受診や生活のことを平日に相談したいとき: 府中市の保健センター、東京都立多摩総合精神保健福祉センター
当ステーションへのお問い合わせは 042-508-3434 で承っています。
おわりに
「毎年この時期だから」というご家族の気づきは、医療にとって意味のある情報です。同時に、それだけで説明を済ませないことも大切だと、診断の側にも書かれています。様子を見るか相談するかで迷われたときは、迷った時点でどこかに話してみていただくほうが、結果として早く落ち着くことが多いように感じています。
訪問看護は、事業所によって得意にしていることや体制が違います。私たちが合わないと感じられることもあると思います。府中市とその周辺にはほかにも訪問看護ステーションがありますので、いくつか見て比べていただくことをおすすめします。大切なのは、ご本人とご家族に合う相手が見つかることです。
よくあるご質問
毎年同じ時期に調子を崩す場合、来年に向けて備えておけることはありますか
いつから・何が・どのくらい続いたかを記録として残しておいていただくと、来年の同じ時期に主治医と共有できます。ICD-11では、季節性のパターンかどうかを見るときに、エピソードの大多数が季節のパターンに対応しているかが要件とされています。年ごとの記録は、そこを判断する材料になります。ただし備えることで必ず防げるとは限りません。
秋に気分が落ち込むのは、うつ病とは別の病気なのですか
別の病気として立てられているわけではありません。ICD-11では、季節性のうつ病性障害は反復性うつ病性障害(6A71)に含まれるものとして扱われ、季節のパターンについては特定用語(6A80.4)で表されます。診断は医師が行いますので、気になる場合は主治医にご確認ください。
季節の変わり目に薬の量が変わることはありますか。家族から伝えたほうがよいことはありますか
お薬の内容や量の判断は主治医が行います。ご家族からは、起床時刻・食事・入浴・外出・口数といった生活の事実と、服薬が飛んでいないかどうかをお伝えいただくとよいと考えています。ご家族の判断でお薬を調整することは避けてください。
引っ越しや転勤など、季節以外の環境の変化でも同じような不調は起こりますか
環境の変化がきっかけになることはあります。ICD-11では、季節のパターンと、毎年その時期に起きる心理的なストレス要因によるエピソードは区別されるとされており、時期が重なっているだけの場合があることが示されています。何が起きていたかを合わせてお伝えいただくと、判断がしやすくなります。
本人が受診を嫌がる場合、家族だけで相談できる窓口はありますか
あります。市区町村の保健センターや保健所、精神保健福祉センターでは、ご本人が受診していない段階でのご家族からのご相談を受け付けています。当ステーションでも、ご家族だけでのご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。



