不眠が続く家族へ|精神疾患と眠れない夜の向き合い方【Vol.76】


不眠が続くご家族へ。家庭でできることと医療にお願いすることを2つに分けた図

夜中にふと目が覚めると、家族の部屋の電気がついている。朝、声をかけても布団から出てこない。眠れていないことは分かっていても、どう声をかければいいのか分からない。精神疾患のあるご家族と暮らしていると、こうした夜が続くことがあります。

このページでは、眠れない状態が続くご家族に、周りの人がどう関わればよいのかを整理しました。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を主な手がかりに、家庭でできることと、医療にお願いしたほうがよいことの線を引いています。

眠れない夜が続くとき、家族が見ているもの

眠れないという状態は、本人にしか分からない部分が多いものです。それでも一緒に暮らしていると、家族のほうが先に気づくことがあります。深夜に物音がする。日中に横になっている時間が増えた。表情が硬く、会話の反応が遅い。そうした変化は、本人が言葉にする前から見えていることがあります。

厚生労働省の睡眠ガイドでは、不眠症について「眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、なかなか寝つけない(入眠困難)、夜間に途中で何度も起きる(中途覚醒)、朝早く目が覚める(早朝覚醒)などの症状が出現し、それにより日常生活に対して何らかの支障(倦怠感や集中力の低下、日中の眠気、仕事の効率や学業成績の低下、眠ることへの強い不安など)を来たす疾患です」と説明されています。眠れた時間の長さだけでなく、日中の生活にどう響いているかが見るところだ、という整理です。

気づいた時点で、すでにご家族は十分に見ています。まずはそこから始めれば大丈夫です。

なぜ眠れなくなるのか|精神疾患と不眠の関係

精神疾患と不眠は、切り離しにくい関係にあります。睡眠ガイドは「うつ病などの精神疾患においても、発症初期から睡眠の問題が出現し、再燃・再発リスクを高めることが知られている」と述べ、さらに「不眠症は、うつ病や不安症をはじめとした様々な精神疾患の初期症状、もしくは併存症として現れることが多くあります」と記しています。

ご家庭で眠れない理由を突き止めようとすると、たいてい行き詰まります。実際には、病気の症状そのもの、お薬の影響、生活リズムの乱れ、寝室の環境といった要素が重なっていることが多いためです。どれが主な原因なのかを見分けるのは、診察と経過を知っている主治医の領域です。

ご家族の側で持っておきたいのは、原因の特定ではなく「いつから、どんなふうに眠れていないか」という事実のほうです。寝つけないのか、途中で起きるのか、朝が早いのか。日中はどう過ごしているか。この3点をメモしておくと、受診の場で伝わる情報になります。診断名ごとの家庭での関わり方は、うつ病の人を、家でどう支える?不安障害・パニック障害の人を、家でどう支える?もあわせてご覧ください。

「早く病院へ」と言いたくなるとき

眠れない日が続くと、家族はどこかで焦り始めます。このままでは体を壊す、早く受診してほしい。その気持ちは自然なものです。ただ、眠れていない本人にとって、受診を勧める言葉は「今のあなたではだめだ」という否定に聞こえてしまうことがあります。

伝え方の目安として、睡眠ガイドは受診を考える場面を示しています。「本ガイドに記載されている事項を実践しても十分な時間眠れない、睡眠で休養感が得られない、日中の眠気が強いなどの症状が継続し、それらの症状が日中の生活に影響を及ぼしている場合は、速やかに医師に相談しましょう」という記述です。判断の軸が「眠れているかどうか」ではなく「日中の生活に影響が出ているかどうか」に置かれている点が、家庭で使いやすいところです。

すでに通院している方であれば、新しい受診先を探す必要はありません。次の診察で睡眠のことを話題に出せるよう、気づいたことをメモして渡すだけでも十分です。本人が話すのが苦しそうなときは、ご家族がメモを主治医に渡す形でも構いません。

昼夜逆転が続くとき、やってしまいがちなこと

眠れない状態が長引くと、家族の側も手立てを探します。そのなかに、よかれと思って続けると裏目に出やすいものがいくつかあります。

  • 早く布団に入らせる。睡眠ガイドは、不眠症の人がベッドで長く過ごして睡眠を確保しようとしがちなことに触れ、「かえって効率の良い睡眠が減少し、眠れないで悶々とベッドで過ごす時間が増え、その結果、さらに不眠症状やそれによる苦痛が悪化するという悪循環に陥ります」と説明しています。同ガイドの推奨は「無理に寝ようとするのを避け、眠気が訪れてから寝床に入る」ことです。
  • 寝酒をすすめる。「寝つきを改善させるために飲酒をする、いわゆる『寝酒』も含めて、大量のアルコール摂取(深酒)や、毎日の飲酒は推奨されません」と明記されています。あわせて「寝酒の原因となる不眠症状がある場合には、医師に相談することが推奨されます」とも書かれています。
  • 眠っていた時間を数えて指摘する。不眠症のある方は、実際に眠っていた時間より短く感じていることがあると報告されています。ただしこれは「本当は眠れている」と本人に言うための材料ではありません。感じ方のずれ自体が苦しさの一部なので、指摘ではなく主治医に伝える情報として扱ってください。
  • 朝、無理に起こし続ける。生活リズムを戻したい気持ちは分かりますが、起床だけを力ずくで動かすと、日中の消耗が増えて夜の眠りがさらに浅くなることがあります。起こす時刻を無理に早めるより、まずは朝の光を部屋に入れることから試してみるのも一つの方法です。

お薬のことが気になるとき、家族はどう見守るか

睡眠に関するお薬が処方されている場合、量や飲み方が気になることがあります。効いていないように見える、逆に日中もぼんやりしている、自分で加減しているようだ。いずれもご家族が心配される場面です。

ここでご家族にお願いしたいのは、お薬の増減をご家庭で判断しないことです。お薬の量や種類、やめる時期を決めるのは主治医の役割で、ご家族が良かれと思って調整すると、かえって不調が出ることがあります。睡眠ガイドも、精神疾患が併存する場合について「不眠症のみを焦点とした治療では十分に改善しない場合も多く、精神疾患の悪化を防ぐためにも医師の助言を求めることをお勧めします」としています。

ご家族にできるのは、気づいたことを言葉にして残すことです。「飲んだ日と飲まなかった日で、翌日の様子がどう違ったか」「日中に眠そうな時間帯があるか」といった観察は、診察室では見えない情報です。本人を問い詰める形にせず、伝える相手を主治医にしておくと、家庭の空気が険しくなりにくくなります。

眠れる工夫は、本人のペースで

生活のなかで整えられることもあります。睡眠ガイドが挙げているもののうち、家庭で取り入れやすいものを紹介します。いずれも、効果を約束するものではなく、合う合わないがあります。

  • 朝と日中の光。「起床後に朝日の強い光を浴びることで体内時計はリセットされ睡眠・覚醒リズムが整い」、日中に光を浴びることで夜の入眠が促されるとされています。カーテンを開けるところからで構いません。
  • 寝室の光。「寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠につながる」とされています。
  • 入浴のタイミング。「就寝の約1から2時間前に入浴し身体を温めてから寝床に入ると入眠しやすくなる」と記載されています。
  • カフェイン。1日の摂取量が400mg(コーヒーで700cc程度)を超えると夜眠りにくくなる可能性があり、夕方以降の摂取は夜間の睡眠に影響しやすいとされています。
  • 体を動かす。息が弾む程度の運動が睡眠の質に役立つとされていますが、体調によっては散歩も負担になります。無理のない範囲から始めるものと考えてください。

大切なのは、これらを家族が管理表のようにして本人に課さないことです。眠れないことに加えて「できていない」が積み重なると、負担が増えてしまいます。1つだけ、本人が選んだものから試すくらいがちょうどよいと考えています。

ご家族自身が、眠れなくなっていませんか

夜中の物音で目が覚める。何かあったら気づけるように、浅く眠る癖がついている。本人の睡眠を心配しているうちに、ご家族の睡眠が削られていることがあります。

ここは軽く見ないでください。支える側が眠れなくなると、判断も感情の余裕も落ちていきます。ご家族自身の不調は、ご家族自身の相談先で診てもらってよいものです。ご家族の消耗そのものについては、家族が「もう限界」と思ったときご家族のしんどさを、軽くするで詳しく扱っています。休職中のご家族を支えている場合は、うつ病で休職中の家族へもあわせてご覧ください。

訪問看護は、眠れない夜に何ができるか

精神科訪問看護は、主治医が交付する訪問看護指示書にもとづいて、看護師などがご自宅へうかがう仕組みです。夜間に泊まって見守る形のサービスではなく、睡眠に関しては次のような関わり方を中心にしています。

  • 眠れていない状況を、時間帯や日中の様子まで含めて整理し、主治医へ報告する
  • お薬の飲み方について、ご本人が困っている点を一緒に確認し、主治医へつなぐ
  • 生活リズムの整え方を、ご本人の生活に合う形で一緒に考える
  • ご家族が抱えている心配ごとを聞き、伝え方を一緒に整理する

眠れない状態がすぐに解消するとお約束することはできません。それでも、家庭のなかだけで抱えていた観察を医療につなぐ役割は担えます。費用の目安は自己負担額の計算ツールで確認できます。通常の訪問は交通費・駐車場代をいただいておりません。夜間・営業時間外の緊急訪問は実費をお願いする場合があります。

なお、訪問看護ステーションは事業所ごとに得意な分野や体制が違います。府中市内にもほかのステーションがありますので、比べたうえで選んでいただくのがよいと考えています。合うかどうかは、事業所の良し悪しよりも前に、人と人の間に起きることだからです。

府中市で相談できる窓口

主治医のほかにも、ご家族が相談できる公的な窓口があります。

  • 東京都多摩府中保健所(精神保健福祉相談)/電話 042-362-2334(代表)。「ご本人、ご家族、関係者の方からのご相談をお受けしています。」と案内されています。専門医による相談は予約制で、事前に地区担当保健師へ相談する流れです。
  • 府中市 健康推進課(保健センター)/電話 042-368-6511(平日8時30分から17時)。こころやからだの相談を受け付けています。

本人がまだ受診していない段階でのご相談については、精神科訪問看護は家族だけで相談できる?で進め方をまとめています。当ステーションの対応地域は対応エリアのページからご確認いただけます。

おわりに|眠れない夜を、家庭だけで抱えなくて大丈夫です

眠れない状態が続いているとき、ご家族は「何とかしてあげたい」と「どうしたらいいか分からない」の間で消耗します。原因を突き止めるのも、お薬を調整するのも、ご家庭の仕事ではありません。ご家族にできるのは、気づいたことを覚えておいて、医療に渡すことです。それだけで十分に役割を果たしています。

府中よりそい訪問看護ステーションでは、精神科訪問看護を行っています。初回のご相談は無料です。ご本人がまだ迷っている段階でも、ご家族だけでお話をうかがえます。お電話(042-508-3434)またはお問い合わせフォームからご連絡ください。

よくあるご質問

何日くらい眠れない日が続いたら、相談したほうがよいですか

日数だけで決まるものではありません。厚生労働省の睡眠ガイドは、生活習慣や睡眠環境を見直しても症状が続き、それが日中の生活に影響を及ぼしている場合に、速やかに医師へ相談するよう勧めています。通院中の方であれば、次の診察で睡眠のことを話題に出すところから始めれば十分です。

眠れない家族に、寝酒をすすめてもよいのでしょうか

睡眠ガイドでは、寝つきをよくするための飲酒(寝酒)は推奨されていません。一時的に寝つきを促しても、睡眠の後半で眠りの質が悪化するとされています。また、寝酒の原因となる不眠症状がある場合は、医師に相談することが推奨されると記載されています。

睡眠薬の量を家族が調整してもよいですか

お薬の量や種類、やめる時期を決めるのは主治医の役割です。ご家庭で増やしたり減らしたりすると、不調が出ることがあります。気になる点は、飲んだ日と飲まなかった日の様子の違いなどをメモして、診察の場で主治医にお伝えください。

不眠が続いているとき、訪問看護は関われますか

精神科訪問看護の利用には、主治医が交付する訪問看護指示書が必要です。指示書が出れば、眠れていない状況の整理や主治医への報告、生活リズムの相談といった形で関わることができます。まず主治医にご相談いただくか、判断に迷う場合は当ステーションへお問い合わせください。

家族である自分のほうが眠れません。どこに相談すればよいですか

ご家族自身の不調は、ご家族自身の相談先で診てもらってよいものです。かかりつけの医療機関のほか、東京都多摩府中保健所の精神保健福祉相談(042-362-2334)は、ご本人・ご家族・関係者からの相談を受け付けていると案内されています。府中市健康推進課(042-368-6511/平日8時30分から17時)でも、こころやからだの相談を受け付けています。

出典:厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月)/東京都多摩府中保健所「精神保健福祉相談(こころの健康相談)」/府中市「こころの健康」(最終更新 2026年7月14日)

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