
「ほとんど食べていないみたいだ」「同じ菓子パンばかり食べている」「作っておいた分が、そのまま残っている」。食卓は一日に三度めぐってきます。そのたびに心配が積み重なっていく、というご家庭は少なくないと思います。食事がとれなくなる背景、家族が抱え込みすぎない関わり方、そして頼れる窓口を、この記事に整理しました。
「食事がとれていない」というご相談を、私たちもいただくことがあります
食事にまつわる困りごとは、ご家庭ごとに顔つきが違います。一日一食になっている。買い置きのパンとコーヒーだけで済ませている。冷蔵庫の中身が減っていない。反対に、夜中に大量に食べている。あるいは、家族が作ったものにはほとんど手をつけないのに、コンビニのものは食べる。
共通しているのは、わざとやっているわけではないと分かっていても「このままで大丈夫なのか」という不安が消えないことです。作っては下げる、を繰り返してこられたご家族も少なくありません。
食事が難しいのは、ほかの困りごとと違って、待ってくれないところです。眠りや入浴なら、今日できなくても明日がありますが、食べないまま日が過ぎれば体のほうが先に細っていきます。ご家族が焦るのは当然のことだと思います。
なぜ、精神疾患があると食事がとれなくなることがあるのか
食事量が変わる背景は、ひとつではありません。ここでは一般的に説明されている考え方を並べます。ご本人に当てはまるかどうかは、主治医が診察のなかで判断することです。
まず、食欲そのものが落ちることがあります。国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」は、うつ病について次のように説明しています。
一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病の可能性があります。
同じサイトでは「身体に現れるうつ病のサイン」として複数の項目が挙げられており、その先頭に「食欲がない」が置かれています。あわせて「うつ病の精神症状に気づく前に、身体の不調が現れることもあります。」とも書かれています。気分の変化より先に、食事の変化のほうが家族の目に触れることがある、ということです。
もうひとつ見落とされやすいのが、食事が「作業の連続」でできているという点です。今日何を食べるか決める。買い物に行く。冷蔵庫の中身を思い出す。火を使う。片づける。この一連の段取りは、複数のことを同時に頭に置いておく必要があります。ここが重くなっているとき、外からは「食べる気がない」としか見えません。けれども実際には、食べたくないのではなく、そこにたどりつけないということが起こります。
薬の影響で食欲や口の渇きが変わることもありますが、どの薬がどう影響しているかは処方内容によって異なります。ここは自己判断の対象ではなく、主治医や薬剤師に確かめていただく部分です。
「わがまま」でも「好き嫌い」でもないかもしれません
ご家族から「せっかく作ったのに」「甘えているだけではないか」というお気持ちをうかがうことがあります。無理もないことだと思います。毎日のことですし、手をかけたものが残っているのを見るのは、こたえます。
ただ、食事の変化は、性格や心がけの問題として片づけられないことがあります。同じものばかり食べるのも、決めることや変えることの負担を減らそうとした結果として起きている場合があります。冷たいものばかり選ぶのも、加熱という工程を省いているだけかもしれません。
「なぜ食べないのか」を問い詰める前に、「何なら食べられているのか」を見ていくほうが、次の一歩につながりやすいと考えています。
家族が気づきやすいサイン|量・回数・好みの変化
ご家庭で見ていただきやすいのは、次のような変化です。数字にできるものは、数字にしておくと後で役に立ちます。
- 一日に何回食べているか(回数が減っていないか)
- 一回にどれくらい食べているか(残す量が増えていないか)
- 何を食べているか(同じものに固定されていないか、菓子類や飲み物に偏っていないか)
- 買い置きや冷蔵庫の減り方(いつからそのままか)
- 水分をとれているか
- 体重や、服のサイズ感の変化
- 食べる時間帯(昼夜が入れ替わっていないか)
これらは、暮らしの側から見えやすい変化です。ただし、どの変化がどの疾患と結びつくかは一律ではありません。うつ病については、国立精神・神経医療研究センターが食欲の低下を身体症状のひとつとして挙げていますが、疾患によって公的な資料での扱われ方は異なります。疾患ごとの現れ方と関わり方については、うつ病の人を、家でどう支える?|知っておきたい基礎知識と、本人・家族にできること【Vol.44】、統合失調症の人を、家でどう支える?【Vol.50】、認知症の人を、家でどう支える?【Vol.52】にそれぞれまとめています。
なお、食事の変化は、調子が崩れはじめたときのサインのひとつとして記録しておくと役に立ちます。その記録のつくり方は精神科の入退院を繰り返すとき|家族ができる再発サインとクライシスプラン【Vol.72】で扱っています。暑い時期は食欲そのものが落ちやすく、水分の不足も重なります。季節の影響については精神疾患のある方の猛暑日サバイバル【Vol.56】もあわせてご覧ください。
無理に食べさせようとする関わりの、難しさについて
「食べないと体がもたない」という心配はもっともです。ただ、食卓が説得の場になってしまうと、食事の時間そのものを避けるようになることがあります。そうなると、量を増やしたかったはずが、機会そのものが減ってしまいます。
できるだけ避けたいのは、量を目標にすることです。「一膳食べきる」ではなく「一口でも口に入れば今日はよし」と置いておくほうが、結果として続くことがあります。
あわせて、次のような工夫を試されるご家庭があります。効果をお約束できるものではありませんが、負担の少ない順に並べます。
- 小さい器に、少なく盛る(残す前提の量にしておく)
- 食べきりのものを、手の届くところに置いておく
- 調理をともなわないもの(ゼリー飲料、バナナ、豆腐など)を用意しておく
- 食べたかどうかを、その場で確認しない
- 一緒に食べる日と、そうでない日を分ける
それでも食べられない日が続くようであれば、家庭で工夫を重ねる段階ではなく、主治医に伝える段階だと考えています。
看護師は、訪問のたびに「食生活」を書き留めています
食事のことは、訪問看護が思いつきで見ている項目ではありません。厚生労働省が定める記載要領(令和8年3月27日 保医発0327第10号)には、精神科訪問看護で使う記録書について次のように書かれています。
また、記録書Ⅱには、訪問年月日、訪問時間(実際の指定訪問看護の開始時刻及び終了時刻)、訪問職種、病状・バイタルサイン、実施した看護・リハビリテーションの内容等(精神科訪問看護に係る記録書Ⅱには、食生活・清潔・排泄・睡眠・生活リズム・部屋の整頓等、精神状態、服薬等の状況、作業・対人関係、実施した看護内容等)の必要な事項を記入すること。
並んでいる項目の先頭が「食生活」です。あわせて、精神科訪問看護記録書Ⅰの「日常生活等の状況」欄にも、食生活、清潔、排泄、睡眠、生活のリズム、部屋の整頓、対人関係、作業等の状況、服薬状況、金銭管理といった項目が置かれ、それぞれに「援助の要否」を記す欄があります。
つまり、食事の話を訪問看護師にしていただくのは、脱線ではありません。様式のうえで、はじめから見ることになっている項目です。「こんなことを言ってもいいのだろうか」と迷われる必要はない、とお伝えしたいところです。
食べることそのものが難しくなっている場合について
食事の悩みのなかには、別の専門的な支援が必要になる場合があります。国立精神・神経医療研究センターは、摂食障害について次のように説明しています。
摂食障害では、必要な量の食事を食べられない、自分ではコントロールできずに食べ過ぎる、いったん飲み込んだ食べ物を意図的に吐いてしまうなど、患者さんによってさまざまな症状があります。
同サイトは治療について「摂食障害は、体重や食事、栄養だけの問題ではありません。」「治療では、こころとからだの両面の問題を扱っていきます。」とも述べています。体重を増やせば済むという話ではない、ということです。
思い当たることがある場合は、食事の工夫を続けるよりも、まず相談先を確かめていただくほうがよいと考えています。同センターは、摂食障害全国支援センター(https://edcenter.ncnp.go.jp/)と摂食障害情報ポータルサイトを情報源として案内しています。診断や治療の要否は、あくまで医療機関で確かめていただく事柄です。
訪問看護だけでなく、頼れる専門職・窓口があります
食事のことは、訪問看護だけが受け皿になっているわけではありません。府中市にお住まいであれば、市の保健相談室があります。市の案内には、次のように書かれています。
健康に関するご相談を保健師・看護師・栄養士・歯科衛生士がお受けします。
相談内容として「からだ・こころ・歯と口の健康、食事などについて」と明示されており、栄養士に食事のことを相談できる窓口です。相談日時は月曜日から金曜日(祝日を除く)の午前8時30分から午後5時で、来所の場合は事前予約が必要とされています。場所は保健センター3階の成人保健係、問合せ先は健康推進課成人保健係(電話042-368-6511)です。費用の負担なく相談できる窓口が市にあることは、知っておいて損のない情報だと思います。
このほか、通院先によっては栄養の相談を受けられるところがあります。また、介護保険を使っている方であれば、担当のケアマネジャーが食事の支援を含めて調整の窓口になります。
訪問看護についても、得意な分野や体制は事業所ごとに違います。私たちが合わないこともあります。いくつか見比べたうえで、ご本人とご家族に合うところを選んでいただくのがよいと考えています。
主治医に、どう伝えればよいか
診察の時間は限られています。食事のことは「あまり食べていません」とだけ伝わりがちですが、それだと判断の材料になりにくいことがあります。次の3点に絞ると、短い時間でも伝わりやすくなります。
- いつから(「2週間ほど前から」「入院から戻ったあとから」)
- どれくらい(「一日一食」「半分残す」「体重が3キロ減った」)
- ほかに変わったこと(眠り、外出、服薬、気分の波)
「いつから」がはっきりしないときは、思い出せる出来事と結びつけて構いません。正確な日付より、変化の順番のほうが役に立ちます。
体重は、家庭で測れるいちばん強い数字です。毎日でなくてよいので、同じ曜日・同じ時間帯に測って書き留めておくと、診察で示せます。訪問看護を利用されている場合は、看護師が記録に残し、必要に応じて主治医へお伝えします。
食事を作り続ける、整え続けるご家族の負担について
ここまで、ご本人の側の話を書いてきました。あわせて、作る側のことも書いておきたいと思います。
食事の支援は、ほかの支援と違って終わりがありません。一日に三度めぐってきますし、残されればまた次を考えることになります。買い物、献立、調理、片づけ。手間の総量そのものが大きく、しかも成果が目に見えにくい種類の労力です。「食べてくれなかった」という結果だけが毎日積み上がっていくと、疲れて当然だと思います。
作り置きを減らす、市販のものを使う、宅配を使う。手を抜いているように感じられるかもしれませんが、続けられる形にすることのほうが優先されてよい場面があります。
ご家族自身の消耗が大きいときの選択肢については、認知症の介護に疲れたら|レスパイトケアの種類と、訪問看護にできること【Vol.65】にまとめています。認知症のご家族を想定した記事ですが、休む仕組みの考え方は共通する部分があります。
訪問看護に、できること・できないこと
誤解を避けるために、範囲をはっきり書いておきます。
調理そのものと栄養管理は、訪問看護の対応範囲には含まれていません。食事を作る、買い物を代わりに行うといった支援は、介護保険の訪問介護や、障害福祉サービスの居宅介護が担う領域になります。献立を組み立てて栄養を管理することは、これらの家事の支援ともまた別で、栄養の専門職が受けもつ領域です。必要な場合は、通院先や市の保健相談室でご相談ください。
いっぽうで訪問看護が担うのは、次のような内容です。
- 食生活の状況を、訪問のたびに確認して記録に残す
- 変化があれば主治医に伝える
- 体重や水分のとり方など、体の状態をあわせて確認する
- ご本人が負担なく続けられる食べ方を、一緒に考える
- 栄養や生活の支援が必要なときに、相談先をお伝えする
「作ってもらえないなら意味がないのでは」と思われるかもしれません。ただ、食事がとれない背景に体調や気分の変化がある場合、そこを見て主治医につなぐ役割は、調理とは別に必要になります。役割が違う、ということだと考えています。
よくあるご質問
食欲がないのは、薬の副作用ですか、それとも病気の症状ですか
この記事では、どちらとも申し上げられません。処方されている薬の種類や量、体調によって事情が異なりますし、判断は診察のなかで行われるものです。飲む量や回数をご家庭で調整することは避け、主治医または薬剤師にお伝えください。
無理にでも食べさせたほうがいいですか
一律にそうとは申し上げられません。食卓が説得の場になると、食事の機会そのものを避けるようになることがあります。量を目標にせず、食べられるものを手の届くところに置いておく形をとられるご家庭があります。食べられない状態が続くときは、家庭での工夫よりも主治医にお伝えいただくほうが確実です。
体重がどれくらい減ったら、受診を考えたほうがいいですか
目安の数値をこの記事で申し上げることはできません。もとの体重や体調によって意味が変わるためです。ご家庭でできるのは、同じ条件で測って記録を残しておくことです。その記録があれば、受診の要否は主治医が判断できます。減り方が急だと感じられる場合は、次の診察を待たずにご相談ください。
摂食障害かもしれないと思ったら、どこに相談すればいいですか
まずは主治医、かかりつけがない場合は精神科・心療内科の医療機関にご相談ください。国立精神・神経医療研究センターは、摂食障害全国支援センターと摂食障害情報ポータルサイトを情報源として案内しています。同センターは「摂食障害は、体重や食事、栄養だけの問題ではありません。」と述べており、体重の増減だけで判断されるものではないとされています。
訪問看護は、食事の準備や栄養管理をしてくれますか
訪問看護の対応範囲には含まれていません。訪問看護が担うのは、食生活の状況を確認して記録に残し、変化があれば主治医に伝え、必要な相談先をお伝えするところまでです。調理や買い物の支援が必要な場合は、介護保険の訪問介護や、障害福祉サービスの居宅介護など、別の仕組みが受け皿になります。どれが使えるかは、ケアマネジャーや市の窓口でご確認ください。
参考にした資料
- 厚生労働省「訪問看護計画書等の記載要領等について」(令和8年3月27日 保医発0327第10号)、参考様式3 精神科訪問看護記録書Ⅰ、参考様式4 精神科訪問看護記録書Ⅱ
- 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「こころの情報サイト」うつ病
- 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「こころの情報サイト」摂食障害
- 摂食障害全国支援センター、摂食障害情報ポータルサイト
- 府中市「保健相談室」(最終更新日 令和8年7月1日)
おわりに
食事の心配は、毎日やってくるぶん、相談のきっかけをつかみにくいところがあります。「これくらいで相談していいのか」と迷ったまま、時間が経ってしまうことも多いように感じます。
食生活は、精神科訪問看護がはじめから見ることになっている項目です。相談していただいて差し支えのない話題ですし、市の保健相談室のように、費用の負担なく栄養士に相談できる窓口もあります。訪問看護以外の選択肢も見比べたうえで、ご本人とご家族に合うところを選んでいただければと思います。
府中よりそい訪問看護ステーションでは、精神科訪問看護を行っています。対応エリアをご確認のうえ、お問い合わせからご連絡ください。初回のご相談は無料で、交通費のご負担もありません。ご参考まで。



