
「もう病院は行かなくていい、と言い出した」「予約の日に起きられず、そのまま行かなくなってしまった」。精神疾患のあるご本人を支えているご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。
受診をどう始めるかという話は、あちこちで語られています。けれど、いったん始まった通院が続かなくなったとき、ご家族に何ができるのかは、あまり書かれていません。この記事では、通院が途切れかけているときに、まず何を切り分ければよいのか、薬が切れそうなときにご家族の側からできることは何か、そして訪問看護がその場面で何ができて何ができないのかを、公的な資料で確かめられる範囲の事実にそって整理しました。
「もう行かなくていい」は、珍しいことではありません
先にこの記事の要点をお伝えします。三つあります。
- 「行きたくない」の中身を、まず二つに分ける。症状としての億劫さなのか、それ以外の事情(費用・時間・通院先との相性)なのかで、できることが変わります
- いちばん急ぐのは、通院そのものより「薬が切れること」。ご本人が動けない日でも、ご家族から医療機関や薬局に相談することはできます
- 一度途切れても、また始められます。戻すときは「元どおりの通院」を目標にせず、次の一回だけを目標にするほうが続きます
通院が続かないことを、ご家族が「本人の努力不足」「自分の関わり方が悪かった」と受け止めてしまうことがあります。ただ、精神疾患の療養では、調子の波によって外出そのものが難しくなる時期があります。続かなくなったことに、必ずしも誰かの落ち度があるわけではありません。
通院が途切れかけているとき、まず切り分けたい二つのこと
「病院に行かない」という同じ一つのできごとでも、背景はずいぶん違います。次の二つに分けてみると、次の一手が見えやすくなります。
- 症状に由来するもの。意欲がわかない、朝起きられない、身支度に時間がかかる、外に出ると人の目が気になる、といったもの。本人の意思の問題ではなく、調子そのものが行動を止めています
- 症状以外の事情。診察が短く感じて意味を見いだせない、待ち時間が長い、費用が負担、主治医と話しづらい、通院に付き添う家族の都合がつかない、といったもの
前者であれば、「行かせる」ことよりも、調子が下がっていること自体を医療につなぐほうが先になります。後者であれば、通院の負担そのものを減らす工夫(時間帯を変える、通院先を変える、費用の制度を使う)が現実的です。
費用の負担が理由になっている場合は、自立支援医療(精神通院医療)という制度で自己負担の割合が下がることがあります。仕組みは自立支援医療とは?精神科訪問看護で月の自己負担を下げる仕組みにまとめています。
なぜ通院が続かなくなるのか|ご家庭で起きやすい背景
訪問の場面でうかがう範囲では、次のような背景が重なっていることがよくあります。
- 調子がよくなったので、もう必要ないと感じた。回復してきた時期は、本人にとって「治った」と感じられる時期でもあります
- 調子が悪すぎて、外出の準備ができない。着替える、髪を整える、電車に乗るという一連の動作が、どれも重い作業になります
- 予約の日付が分からなくなった。診察券や予約票をなくした、日付を覚えていない、という理由で行けなくなることもあります
- 診察で何を話せばよいか分からない。「変わりありません」で終わってしまい、行く意味を感じられなくなります
- 副作用がつらい。薬について言い出しにくく、通院ごと遠ざかってしまうことがあります
このうち「調子がよくなったから」という理由は、とくに注意して見ておきたいところです。統合失調症について、国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」には、「再発を繰り返すことが多い疾患なので、しばらく症状が安定しているからといって自己判断で薬の量を減らしたり中止したりすることは、再発を誘発して重症化の危険を高めます」と書かれています。これは薬についての記述ですが、通院が止まれば処方も止まりますので、地続きの話になります。
「行きなさい」と言うほど、遠ざかってしまうことがあります
心配が強いほど、声かけは「行きなさい」「約束したでしょう」に近づいていきます。ただ、本人にとっては、行けていないこと自体が引け目になっていることが少なくありません。そこへ正論が重なると、話題そのものを避けるようになり、かえって遠ざかることがあります。
お伝えしていることの一つは、通院の話と、日常の会話を分けるということです。顔を合わせるたびに受診の話になると、ご家族との時間そのものが本人にとって負担になります。話すのは「次の受診日をどうするか」を決める場面だけにして、それ以外の時間は通院の話を持ち出さない、という形にすると、話し合いが続きやすくなります。
もう一つは、「行く・行かない」ではなく、行けない理由を一つずつ小さくしていくことです。朝がつらいなら午後の予約に変えられないか、待ち時間がつらいなら比較的空いている曜日はないか、といった相談は、医療機関の受付でもできることがあります。
通院が途切れると、実際に何が起きるのか
「しばらく行かなくても大丈夫では」と考えたくなる場面もあると思います。実際に何が止まるのかを整理しておくと、優先順位がつけやすくなります。
- 処方が更新されない。手元の薬がなくなると、そこで服薬が止まります。これがいちばん早く影響が出ます
- 調子の変化を医療者が把握できなくなる。悪くなっているのか、落ち着いているのかを、診察の場で確かめる機会がなくなります
- 制度の手続きに使う書類が、出しにくくなる。医師の診断書が必要になる手続きもあります。診察が途切れていると、書類の作成をお願いしにくくなることがあります
- 訪問看護を使っている場合は、主治医とのやりとりが必要になる。訪問看護は主治医の診療を前提にした制度です。通院が空いたままのときは、担当のステーションにも早めにご相談ください
逆に言えば、通院を一気に元どおりにできなくても、まず処方だけでもつなぐことには意味があります。
薬が残り少ないのに、次の受診日が決まっていないとき
この状況でいちばんしてはいけないのは、ご自宅の判断で薬を減らして「もたせる」ことです。国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」のうつ病のページにも、「主治医の指示に従い、自分の判断で薬の量を増やしたり減らしたり中断したりせず、焦らずに服薬を継続してください」と書かれています。残りが少ないことに気づいた時点で、量を触る前に連絡をしてください。
連絡先は、次の順で考えると迷いにくくなります。
- かかりつけの医療機関。受診が空いていること、薬が残り少ないことを伝え、どうすればよいか指示を仰ぎます
- いつも受け取っている薬局。医療機関に連絡がつかないときも、薬局から医療機関に確認してもらえることがあります。お薬手帳があると話が早くなります
- 訪問看護を利用している場合は、担当のステーション。医療機関への連絡の仕方を一緒に整理することができます
なお、ご本人が薬そのものを拒んでいる、飲んでいるように見えて実は飲めていない、という場合は、通院とは別の対応になります。そちらは薬を飲まないとき、家族はどうする?で詳しくお伝えしています。
ご家族だけでできること|病院・薬局に相談するという道
「本人が行かないのに、家族が病院に連絡してよいのだろうか」と迷われることがあります。厚生労働省「こころの耳」のご家族向けのページ(働く方とそのご家族に向けた資料です)には、受診の付き添いについて「毎回の受診に付き添う必要はありませんが、一緒に主治医のお話を聞くことで、ご本人のどんな点に気をつけてサポートするといいのか分かることがあります」と書かれています。さらに、「また主治医に面会しておくことで、ご本人が調子を崩してどうしても通院できないときに、代理で受診して相談することもできます。」とも書かれています。
ご家族が代わりに相談できるかどうかは、医療機関の方針やご本人の同意の状況によって変わりますので、どこでも同じようにできるとお約束はできません。ただ、「家族だけで相談できる場合がある」ということを知っておくと、動ける場面が増えます。まずはかかりつけの医療機関に、家族から相談したい旨を電話で尋ねてみてください。
ご本人がまだ一度も受診していない段階でしたら、精神科訪問看護は家族だけで相談できる?本人が受診していないときの進め方のほうが近い内容です。
主治医に、どう伝えればよいか
限られた診察時間で伝えるには、あらかじめ書いて持っていくのがいちばん確実です。次の四つがそろっていると、医師の側も判断しやすくなります。
- いつから通えていないか(前回の受診日と、行けなかった予約の回数)
- 薬の残りはどのくらいか(何日分あるか。分かる範囲で構いません)
- 家での様子の変化(睡眠、食事、外出、口数など、目に見える形で)
- 行けない理由として本人が話していること(本人の言葉のまま)
評価や解釈を書く必要はありません。「怠けている」「甘えている」といった言葉より、「朝10時に起こしても起き上がれない日が週に4日ある」といった事実のほうが、はるかに役に立ちます。
一度途切れても、また始められます
通院が数か月空いてしまうと、「今さら行きにくい」「怒られるのではないか」という気持ちが出てきます。これはご本人にもご家族にも起こります。
再開のときに私たちがお伝えしているのは、元どおりの通院を目標にしないことです。「毎月きちんと通う」ではなく、「次の一回だけ行ってみる」を目標にします。予約の電話をご家族がかける、当日は玄関まで一緒に出る、といった形で、負担のかかる部分だけを分担する方法もあります。
また、通院先そのものが合っていないこともあります。医療機関を変えること自体は、責められるようなことではありません。ただ、変えると、それまでの経過が新しい主治医には伝わっていない状態から始まります。お薬手帳や、これまでの経過を書いたメモを持っていくと、引き継ぎがしやすくなります。
再発のサインが心配なとき
通院が途切れている時期は、調子の変化に気づく機会が減ります。眠れない日が続く、話の内容が急に変わる、外出が極端に減る、といった変化が続くときは、次の予約を待たずに医療機関に連絡してください。
調子を崩したときのサインの見分け方や、あらかじめ決めておく対応の手順については、精神科の入退院を繰り返すとき|家族ができる再発サインとクライシスプランにまとめています。
命にかかわりそうな切迫した状況では、次の窓口があります。意識がない、けがをしているなど生命の危険があるときは119番。判断に迷うときは救急相談センター#7119(東京消防庁のページには、03-3212-2323 からもつながると書かれています)。夜間や休日に精神科の受診先が分からないときは、東京都の精神科二次救急受付窓口「ひまわり」03-5272-0303があります。
訪問看護は、通院とどう関わるのか|できること・できないこと
「訪問看護に来てもらえば、通院しなくてもよいのでは」というお尋ねをいただくことがあります。ここは正直にお伝えしておきたいところです。
訪問看護は、主治医の診療を前提にした制度です。健康保険法第88条第1項は、訪問看護療養費の対象を、居宅で継続して療養を受ける状態にある者のうち「主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めたものに限る。」と定めています。
そして、訪問看護は診断も処方も行いません。ですから、訪問看護に入っているあいだも、主治医の診察が要らなくなるわけではありません。通院が空いたままのときに訪問看護をどう続けるかは、主治医や事業所との相談になりますので、早めにご相談ください。
そのうえで、訪問看護にできることはあります。
- ご自宅での様子を継続して見て、調子の変化を早めにつかむこと
- 診察で伝えたいことの整理を、ご本人・ご家族と一緒に行うこと
- 受診の日程や薬の残りを、生活の流れのなかで一緒に確認すること
- 主治医に対して、訪問時に把握した状況を報告すること
できないこともあります。診断すること、薬を処方すること、通院を代わりに済ませること。これらは訪問看護の役割ではありません。また、ご本人に受診を約束させるような関わりは、しないようにしています。無理に動かすことは、結果として関係を切ってしまうことが多いからです。
なお、病院ではなく訪問看護そのものを「来なくていい」と言われているときは、訪問看護を本人が拒否したら?説得しない関わり方と、再開までの道をご覧ください。
ご家族が相談できる窓口
ご家族だけで抱えなくてよい相談先があります。
- お住まいの市区町村の障害福祉担当・保健センター。通院が途切れていることを含め、生活全体の相談ができます
- 東京都の保健所・精神保健福祉センター。ご本人が来られない段階でのご家族の相談も受け付けています
- 相談支援専門員・ケアマネジャー。すでに福祉サービスや介護保険を使っている場合は、担当者に通院の状況を共有しておくと動きやすくなります
- 訪問看護ステーション。すでに利用している場合は、まず担当に伝えてください
府中よりそい訪問看護ステーションにできること
府中よりそい訪問看護ステーションは、東京都府中市を拠点に、精神科の訪問看護を行っています。通院が続かなくなっているときも、ご自宅での様子を見ながら、主治医とのやりとりの整理をご一緒にお手伝いすることができます。
ただ、事業所によって得意な分野も体制も違います。合うかどうかは、優劣ではなく、人と人の間に起きる相性のようなものです。私たちが合わないこともあります。ほかの事業所もあわせてご覧いただいたうえで、いちばん安心できるところを選んでいただければと思います。
府中市の相談先を一覧で探したい方は府中市の精神科医療マップを、近隣の市にお住まいの方は対応エリアのご案内をご覧ください。
初回のご相談は無料です。交通費もいただいていません。ご本人がまだ受診されていない段階で、ご家族だけでご相談いただくこともできます。お電話(042-508-3434)またはお問い合わせフォームからご連絡ください。
よくあるご質問
通院をやめてしまった場合、また通院を再開できますか
期間が空いていても、再開のご相談はできます。まずはこれまでかかっていた医療機関に、通えていなかったことを含めて電話でご相談ください。受け入れの可否や手続きは医療機関によって異なりますので、必ず同じように再開できるとお約束はできませんが、「久しぶりでは行きにくい」という理由だけで諦める必要はありません。
本人が病院に行きたがらないとき、家族だけで病院に相談してもいいのでしょうか
厚生労働省「こころの耳」のご家族向けのページには、ご本人が調子を崩してどうしても通院できないときに、代理で受診して相談することもできる、という記述があります。実際に対応できるかどうかは医療機関の方針やご本人の同意の状況によりますので、まずはかかりつけの医療機関に、家族から相談したい旨をお尋ねください。
薬が残り少ないのに次の受診日が決まっていません。どうすればいいですか
自己判断で量を減らして日数をもたせることは避けてください。まず、かかりつけの医療機関にご連絡ください。連絡がつかないときは、いつも薬を受け取っている薬局にご相談いただく方法もあります。お薬手帳があると、何をどれだけ飲んでいるかが伝わりやすくなります。
通院が途切れると、訪問看護は受けられなくなりますか
訪問看護は主治医の診療を前提にした制度です。健康保険法第88条第1項は、訪問看護療養費の対象を「主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めたものに限る。」と定めています。通院が空いたままのときに訪問看護をどう続けるかは、主治医や事業所との相談になります。受けられなくなると決まっているわけではありませんので、通院が空いているときほど、早めに担当のステーションにご相談ください。
「サボっている」ようにしか見えないのですが、これも症状なのでしょうか
意欲がわかない、体が動かないという状態は、精神疾患の症状として現れることがあります。ただ、症状によるものか、それ以外の事情によるものかを、ご家庭で見分けるのは簡単ではありません。見分けようとするより、「朝起きられない日が週に何日ある」といった目に見える事実を書き留めて、主治医に伝えていただくほうが確実です。
おわりに
通院が続かなくなるのは、本人の意思が弱いからでも、ご家族の関わりが足りないからでもありません。調子の波のなかで起こる、よくあるできごとの一つです。全部を元どおりにしようとせず、薬が切れないようにすること、次の一回につなげることから始めていただければと思います。
参考にした資料: 健康保険法第88条(e-Gov法令検索)/国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」統合失調症・うつ病のページ/厚生労働省「こころの耳」ご家族の方へ


