
「要介護認定を受けているので、訪問看護は介護保険になりますよね?」
ご家族やケアマネジャーの方から、よくいただくご質問です。
訪問看護には、医療保険で受けるかたちと、介護保険で受けるかたちの2つがあります。どちらを使うかは、ご本人やご家族が選べるものではなく、制度の側であらかじめ決められています。そして精神科の訪問看護は、この振り分けのなかでも例外的な位置にあります。
このページでは、どちらの保険になるのかを決めている条文をたどりながら、判断の順序を整理します。府中市で精神科・認知症の訪問看護をしている事業所として、実際の相談でつまずきやすいところにも触れます。
結論:精神科訪問看護は、要介護認定があっても医療保険になります
先に結論だけお伝えします。
精神科を担当する主治医から精神科訪問看護指示書が交付されている場合、要介護認定を受けている方であっても、訪問看護は医療保険で行われます。介護保険の要介護度や区分支給限度基準額とは、別枠で考えることになります。
ただし、ここには重要な例外があります。認知症が主たる傷病である場合は、この扱いになりません。この一点を知らないまま話が進むと、後から保険の付け替えが必要になることがあります。詳しくは後半で条文を引きながら説明します。
原則は「要介護認定があれば介護保険が優先」
まず原則から確認します。根拠は健康保険法第55条第3項です。
被保険者に係る療養の給付又は(中略)訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給は、同一の疾病又は負傷について、介護保険法の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
健康保険法(大正11年法律第70号)第55条第3項
読みくだすと「介護保険から同じ内容の給付を受けられるなら、医療保険からは出しません」という意味です。訪問看護は医療保険にも介護保険にもあるサービスなので、要介護・要支援の認定を受けている方は、原則として介護保険が先に立ちます。
ここまでが一般的に説明される「原則」です。問題は、この原則には明文の例外がいくつも用意されていて、精神科の訪問看護がまさにその例外に入っている、という点です。
原則に優先する4つの例外
要介護認定を受けている方でも医療保険の訪問看護になるケースは、厚生労働省の通知に列挙されています。
訪問看護療養費は、要介護被保険者等である患者については、原則としては算定できないが、特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を行う場合、(中略)基準告示第2の1の(1)に規定する疾病等の利用者に対する指定訪問看護を行う場合(中略)、精神科訪問看護基本療養費が算定される指定訪問看護を行う場合(認知症でない患者に指定訪問看護を行う場合に限る。)及び入院中(外泊日を含む。)に退院に向けた指定訪問看護を行う場合には、算定できる。
「医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項及び医療保険と介護保険の相互に関連する事項等について」(令和6年3月27日 老老発0327第1号・保医発0327第8号による改正後)
整理すると、例外は次の4つです。
- 厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第7)にあてはまるとき
- 特別訪問看護指示書が交付されているとき
- 精神科訪問看護基本療養費を算定する訪問看護のとき(認知症でない場合に限る)
- 入院中に、退院に向けて行う訪問看護のとき
このうち3番目が、精神科訪問看護をご検討の方にいちばん関係します。順に見ていきます。
例外1|精神科訪問看護指示書が出ているとき
精神科訪問看護基本療養費は、訪問看護療養費を定めた告示のなかで、次のように対象が決められています。
指定訪問看護を受けようとする精神障害を有する者又はその家族等(中略)に対して、その主治医(保険医療機関の保険医であって精神科を担当するものに限る。)から交付を受けた精神科訪問看護指示書及び精神科訪問看護計画書に基づき(中略)指定訪問看護を行った場合に(中略)算定する。
訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(平成20年厚生労働省告示第67号)区分番号01-2 注1
ポイントは2つあります。
指示書を書けるのは精神科を担当する医師だけです。内科の主治医が書いた通常の訪問看護指示書では、この例外に乗りません。精神科訪問看護指示書は、精神科の医師が診療にもとづいて交付するものと定められています(医科診療報酬点数表 I012-2 精神科訪問看護指示料 注1)。
ご家族への支援も対象に含まれます。条文が「精神障害を有する者又はその家族等」と書いているとおり、ご家族への関わりも制度上の対象です。ご本人がまだ受け入れられない段階で、ご家族の相談から始まることは実際にあります。
なお、年齢の条件はこの条文にはありません。20代・30代の方の利用については精神科訪問看護は20代・30代でも使える?で詳しく整理しています。
例外2|厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)にあてはまるとき
末期の悪性腫瘍や難病など、国が定めた疾病等の一覧にあてはまる場合も、要介護認定にかかわらず医療保険になります。この一覧は「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等」(平成18年厚生労働省告示第103号)第2の1の(1)に置かれていて、実務では別表第7と呼ばれます。
この場合、訪問回数の上限(原則は週3日まで)も外れます。告示の本文でも、週3日の限度は「別に厚生労働大臣が定める疾病等の利用者に対する場合を除く」と書かれています。
ご自身が該当するかどうかは、傷病名だけでは判断しきれないことがあります。主治医か、訪問看護ステーションにお尋ねください。
例外3|特別訪問看護指示書が出たとき
状態が急に悪くなり、一時的に頻回の訪問が必要になったときに交付されるのが、特別訪問看護指示書です。告示では次のように定められています。
- 急性増悪等により一時的に頻回の訪問看護の必要がある場合に交付される
- 原則として1か月に1回まで
- 指示があった日から起算して14日を限度とする
精神科には、これに対応する精神科特別訪問看護指示書があります。こちらも月1回・14日以内という枠は同じです。期間が終われば、もとの枠に戻ります。
「一時的なもの」であることが制度上の前提なので、この指示書があるあいだだけ保険の扱いが変わる、という点にご注意ください。
いちばんの注意点|認知症が主たる傷病のときは、精神科の例外に乗りません
ここが、この記事でもっともお伝えしたいところです。給付調整の通知には、精神科訪問看護についてこう書かれています。
精神疾患を有する患者であり、精神科訪問看護指示書が交付された場合は、要介護被保険者等の患者であっても算定できる。ただし、認知症が主傷病である患者(精神科在宅患者支援管理料を算定する者を除く。)については算定できない。
前掲・医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項
つまり、認知症が主たる傷病である方は、精神科訪問看護指示書があっても、要介護認定を受けていれば介護保険の訪問看護になります。精神科の例外には乗りません。
実務でつまずきやすいのは、次のような場合です。
- 認知症とうつ症状の両方があり、どちらが主たる傷病なのかが整理されていない
- もともと統合失調症で長く通院していた方に、あとから認知症の診断がついた
- 精神科の医師にかかっているので、当然に医療保険だと思われていた
どれも、主治医に主たる傷病を確認してから進める必要があります。判断するのは訪問看護ステーションではなく主治医です。私たちが独自に決められるものではありません。
認知症のある方のご家族からのご相談については、一人暮らしの親が認知症かも?や認知症の介護に疲れたらもあわせてご覧ください。
年齢によっても変わります|40歳未満・40歳から64歳・65歳以上
そもそも介護保険を使えるかどうかは、年齢でも決まります。介護保険法は、被保険者を65歳以上の方(第1号被保険者)と、40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)の2つに定めています(第9条)。そのうえで、40歳以上65歳未満の方が要介護者にあたるのは、政令で定める特定疾病によって要介護状態になった場合に限られます(第7条第3項第2号)。
- 40歳未満:介護保険の被保険者にあたりません。訪問看護は医療保険の一本になります
- 40歳から64歳(第2号被保険者):国が定めた特定疾病に該当する場合に限り、介護保険の対象になります
- 65歳以上(第1号被保険者):原因を問わず、要介護認定を受ければ介護保険の対象になります
40歳未満の方については、そもそも介護保険との調整が起きません。「要介護認定を受けていないから訪問看護は使えないのでは」と思われていた方もいらっしゃいますが、それは関係がありません。
どちらの保険かで、何が変わるのか
保険の種類が変わると、実際の使い勝手が次の点で変わります。
回数の数え方|医療保険の精神科訪問看護は、原則として週3日までです。退院日から起算して3か月以内(退院日そのものは含みません)は週5日まで広がります。介護保険の場合はケアプランの範囲で組み立てるため、考え方そのものが異なります。回数の詳しい整理は精神科訪問看護は週何回来てくれる?にまとめています。
区分支給限度基準額との関係|医療保険の訪問看護は、介護保険の限度額を使いません。デイサービスやヘルパーで限度額がいっぱいになっていても、そのことが医療保険の訪問看護の回数を直接減らすわけではありません。
自己負担の仕組み|医療保険であれば、精神疾患での通院・訪問看護には自立支援医療(精神通院医療)が使えます。仕組みは自立支援医療とは?で解説しています。おおよその金額は精神科訪問看護の料金はいくら?と自己負担額の計算ツールでご確認いただけます。
計画を立てる人|介護保険であればケアマネジャーがケアプランを作ります。医療保険の訪問看護は、主治医の指示書にもとづいて訪問看護ステーションが訪問看護計画書を作ります。窓口が変わる、と考えていただくとわかりやすいかもしれません。
自分がどちらになるのか、確かめる順序
ご自身やご家族がどちらにあたるかは、次の順に確認していくと整理しやすくなります。
- 年齢を確認する。40歳未満であれば医療保険の一本です
- 要介護・要支援の認定があるかを確認する。なければ医療保険です
- 主たる傷病を主治医に確認する。認知症が主たる傷病であれば、認定がある場合は介護保険です
- 精神科の主治医がいるかを確認する。精神科訪問看護指示書を書けるのは精神科の医師です
- 別表第7や特別訪問看護指示書にあたらないかを確認する。あてはまれば医療保険です
ここまで読んでもご自身のケースが判断しづらい、ということはあると思います。制度の切り分けは、書面と診断名を突き合わせないと決まらない部分が残ります。無理にご自分で結論を出さず、主治医か訪問看護ステーションにお尋ねいただくのがいちばん確実です。
府中よりそい訪問看護ステーションでの実際
当ステーションは精神科と認知症のケアを中心にしている事業所です。ご相談をいただいたときは、まず年齢・認定の有無・主治医の科・主たる傷病をうかがい、どちらの保険で組み立てることになるかを整理したうえでお返事しています。
主治医への指示書のご依頼は、ご本人やご家族おひとりで進めていただかなくて大丈夫です。書類のやりとりはお手伝いできます。
また、対応できる地域には範囲があります。お住まいが範囲に入るかどうかは対応エリアのご確認ページで調べていただけます。範囲の外だった場合も、そこで終わりにはせず、お近くで探せる先をご一緒に考えます。
お困りのときの相談先
保険の種類にかかわらず、急いで相談したいときの窓口を整理しておきます。
- 命に関わる緊急のとき:119番
- 救急車を呼ぶか迷うとき:#7119(多摩地域は042-521-2323)
- 受診できる医療機関を探したいとき:東京都医療機関案内サービス「ひまわり」03-5272-0303
- 介護保険の認定や制度のこと:府中市の担当窓口、または担当のケアマネジャー
まとめ
要点を4つにまとめます。
- 原則は「要介護認定があれば介護保険が優先」(健康保険法55条3項)
- ただし精神科訪問看護指示書が出ていれば、認定があっても医療保険
- 認知症が主たる傷病のときは、この例外に乗らない(給付調整通知に明記)
- 別表第7・特別訪問看護指示書・退院に向けた訪問も、医療保険になる例外
制度の入り口でつまずいて、必要なケアが遅れてしまうのはもったいないことです。どちらの保険になるのか分からないままでもかまいませんので、まずは状況をお聞かせください。お問い合わせページからご連絡いただけます。
よくあるご質問
要介護1の認定を受けています。精神科訪問看護は介護保険になりますか?
精神科を担当する主治医から精神科訪問看護指示書が交付されていれば、要介護認定があっても医療保険での訪問看護になります。ただし認知症が主たる傷病である場合は、この扱いにならず介護保険になります。主たる傷病がどれにあたるかは主治医の判断になりますので、まず主治医にご確認ください。
介護保険の限度額を使い切っていますが、訪問看護は受けられますか?
医療保険での訪問看護になる場合、介護保険の区分支給限度基準額とは別枠になります。デイサービスやヘルパーで限度額がいっぱいでも、そのことが医療保険の訪問看護の回数を直接減らすわけではありません。どちらの保険になるかによって変わりますので、状況をうかがったうえでご案内します。
医療保険と介護保険の訪問看護を、同じ月に両方受けられますか?
健康保険法第55条第3項は、介護保険から同じ内容の給付を受けられる場合に医療保険からは支給しないと定めています。同じ内容の訪問看護をどちらからも重ねて受けることは、制度上想定されていません。ただし特別訪問看護指示書が出た期間だけ医療保険に切り替わるなど、時期によって扱いが変わることはあります。
認知症と診断されていますが、精神科訪問看護は使えないということですか?
訪問看護そのものを受けられないという意味ではありません。認知症が主たる傷病で要介護認定がある場合、介護保険の訪問看護というかたちになる、ということです。認知症のある方への訪問看護は、当ステーションでもお受けしています。どちらの保険で組み立てるかを整理したうえでご案内します。
途中で保険が切り替わることはありますか?
あります。たとえば特別訪問看護指示書が交付されると、その期間(14日以内)は医療保険になり、期間が終わればもとに戻ります。また、あとから要介護認定を受けた、主たる傷病の整理が変わった、といった場合にも扱いが変わることがあります。切り替わるときは、訪問看護ステーションからご説明します。
出典(公的機関)
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第55条第3項(e-Gov法令検索)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第9条
- 訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法(平成20年厚生労働省告示第67号)区分番号01・01-2
- 訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等(平成18年厚生労働省告示第103号)第2の1の(1)
- 医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項及び医療保険と介護保険の相互に関連する事項等について(令和6年3月27日 老老発0327第1号・保医発0327第8号による改正後)
- 診療報酬の算定方法(医科診療報酬点数表)区分番号I012-2 精神科訪問看護指示料



