
気温が上がってくると、「なんだか今年も夏がしんどいな」と感じる方は少なくありません。眠りが浅くなる、食欲が落ちる、気持ちがあせる、ぼんやりする。こうした夏の不調は、気のせいでも、気合いが足りないからでもありません。暑さは、体にもこころにも、思った以上に大きな負担をかけています。
とくに精神疾患のあるご本人や、お薬を続けている方は、夏に体調をくずしやすいと言われています。この記事では、精神科訪問看護の現場目線で、「なぜ夏に注意が必要なのか」「お薬と体温調節の関係」「ご本人とご家族にできる3つの備え」を、できるだけやさしく整理しました。むずかしいことを完璧にやる必要はありません。少しの工夫が、夏を乗り切る大きな助けになります。
「夏になると調子が崩れる」は、気のせいではありません
毎年、夏になると決まって不調になる。そんな自分を「だらしない」と責めてしまう方がいます。でも、暑さが続く時期に体やこころの調子がゆらぐのは、めずらしいことではありません。
夏は、寝苦しさによる睡眠不足、汗による脱水、そして暑さに対応しようとする自律神経への負担が重なります。これらが積み重なると、体調をくずしやすくなると考えられています。まずは「夏は無理をしやすい季節なんだ」と知っておくこと。それだけで、つらさの受けとめ方が少し変わってきます。
なぜ、夏は注意が必要なの?
夏の不調には、いくつかの背景があると考えられています。代表的なものを3つ挙げます。
- 睡眠の負債:熱帯夜が続くと、眠りが浅くなったり途中で目が覚めたりします。睡眠が足りない状態が続くと、気持ちの余裕が減り、不調が出やすくなることがあります。
- 脱水:汗をかくと、体から水分と塩分(電解質)が失われます。脱水が進むと、頭がぼんやりしたり、落ち着かなくなったりすることがあります。
- 自律神経への負担:暑い外と冷えた室内を行き来したり、体温を一定に保とうとがんばり続けたりすることで、自律神経に負担がかかると言われています。
さらに、精神疾患のある方は、熱中症に注意が必要な方とされています(厚生労働省)。体温の調節が苦手になりやすいことが、その背景にあると言われています。これは決して「弱い」ということではなく、体のしくみとして起こりやすいということです。だからこそ、まわりの少しの工夫や声かけが、大きな支えになります。
お薬と体温調節の話
お薬の中には、汗のかき方や体温の調節に影響することがあるものがあります。汗をかきにくくなると、体に熱がこもりやすくなり、暑さの影響を受けやすくなることがあると言われています。環境省の資料でも、一部のお薬で発汗や体温調節がうまくいかなくなる場合があることが示されています。
また、お薬の中には、夏場の脱水によって体内での濃度が変わりやすくなるものもあります。だからこそ、夏は「水分をしっかりとる」「極端に塩分を減らさない」ことが大切になります。
ここでいちばん大事なことをお伝えします。「夏は薬が心配だから」と、自己判断で量を減らしたり、やめたりしないでください。お薬は、続けることに意味があります。暑さや夏の過ごし方で気になることがあれば、暑くなりきる前に、主治医に相談しておきましょう。「夏はどう過ごせばいいですか」と一言たずねておくだけで、夏の過ごし方の見通しが立てやすくなります。
「夏のうつ(夏季うつ)」って?
季節の変わり目に気分が落ちこむタイプのうつ症状を「季節性のうつ」と呼ぶことがあります。冬に出やすいものがよく知られていますが、夏に出るタイプもあり、「夏のうつ」「夏季うつ」と呼ばれることがあります。これは正式な独立した病名ではなく、季節性の気分の変化の一つとして語られる呼び名です。
夏のタイプは、冬のタイプとは逆の特徴がみられると言われています。冬は「眠りすぎる・食べすぎる」傾向があるのに対し、夏は眠れない・食欲が落ちる・あせりや不安が強くなるといった出方をすることがあります。「夏バテかな」と思っていたら、気分の落ちこみも重なっていた、ということも少なくありません。
もし気分の落ちこみが2週間ほど続くようなら、一人で抱えこまず、かかりつけの医療機関に相談してみてください。うつそのものへの向き合い方は、うつ病の方を在宅でどう支えるかの記事でもくわしく紹介しています。
本人と家族にできる、3つの備え
むずかしいことはいりません。次の3つを「だいたいできていればいい」くらいの気持ちで、暮らしに取り入れてみてください。
1. エアコンは「つけっぱなし」を基本に
「もったいない」「冷えすぎる」といった理由で、エアコンを我慢してしまう方がいます。けれど、室内でも熱中症は起こります。設定温度は無理のない範囲でかまわないので、暑い時期は「つけっぱなし」を基本にしましょう。ご家族は、「暑くない?」ではなく「一緒に涼しくしようか」と、責めない声かけにすると受け入れてもらいやすくなります。
2. 水分は、塩分・電解質もいっしょに
のどが渇く前に、こまめに水分をとることが大切です。たくさん汗をかいた日は、水だけでなく、塩分や電解質をいっしょに補えると安心です。お薬を続けている方にとって、夏の脱水を避けることは、とくに大事な備えになります。冷蔵庫に飲み物を見える形で置いておくなど、自然に手がのびる工夫もおすすめです。
3. 暑くなる前に、主治医に「夏の過ごし方」を聞いておく
本格的な暑さが来る前に、「この夏はどう過ごせばいいか」を主治医に相談しておきましょう。お薬を飲んでいる方は、夏の水分のとり方や気をつけることを、あらかじめ聞いておくと安心です。前もって相談しておけば、いざ調子がゆらいだときも、あわてずにすみます。
「いつもと違う」に気づくことが、いちばんの備え
脱水が進んだり、体に熱がこもったりすると、「ぼんやりする」「つじつまの合わない言動が出る」といった、いつもと違う様子があらわれることがあります。こうした状態は、せん妄と呼ばれることもあります。
ご家族が「あれ、いつもとちょっと違うな」と感じたら、それが大切なサインです。何か特別な症状を探そうとしなくて大丈夫。「なんとなく元気がない」「会話がかみ合わない」「水分がとれていない」。そんな小さな違和感に気づけたら、それで十分です。気になったときは、早めにかかりつけや訪問看護に相談してください。
もともと不安が強い方や、幻覚・幻聴のある方は、暑さや寝不足が重なると、症状が出やすくなることがあります。日ごろの支え方については、不安障害・パニック障害の在宅ケアや統合失調症の在宅ケアの記事もあわせてご覧ください。
救急の目安は「迷ったら相談する」
「これくらいで連絡していいのかな」とためらううちに、対応が遅れてしまうことがあります。判断に迷ったときこそ、相談してかまいません。困ったときの窓口を、3つに分けて覚えておくと安心です。
- 命の危険を感じるとき(意識がもうろう・呼びかけへの反応が鈍い・けいれん):119番。ためらわず救急車を呼んでください。
- 救急車を呼ぶか迷う急な体調変化:#7119(救急安心センター)。看護師・相談員などが、受診の必要性を一緒に判断してくれます。
- 夜間・休日に精神科の受診先を知りたいとき:東京都医療機関案内サービス「ひまわり」 03-5272-0303。受診できる医療機関を案内してくれます。
強い希死念慮(死にたい気持ち)が出ているときや、幻覚・妄想が急に悪化したとき、水分がとれず脱水が心配なときも、迷わず相談・受診してください。「大げさかな」と思う必要はありません。
訪問看護でできること
精神科訪問看護では、夏のあいだの体調やお薬の続け方、生活のリズムを、ご自宅で一緒に見守ります。「水分はとれているか」「眠れているか」「いつもと違うところはないか」を、定期的な訪問の中で確認し、気になることがあれば主治医とも連携します。ご本人だけでなく、支えるご家族の不安にも寄りそいます。
府中よりそい訪問看護ステーションは、府中市を中心に、精神科に特化した訪問看護を行っています。医療顧問の青栁医師と連携し、認知症ケアにも力を入れています。「夏のあいだ、家での過ごし方が心配」「ひとりだと不安」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。地域の相談先をまとめた府中市のこころの相談マップもご活用いただけます。梅雨の時期の過ごし方は梅雨とこころの記事でも紹介しています。
暑い夏を、無理に一人で乗り切ろうと思わなくて大丈夫です。少しずつ、まわりに頼りながら、この季節をやりすごしていきましょう。
お問い合わせ:府中よりそい訪問看護ステーション
電話 042-508-3434(受付 9:00-18:00)



