統合失調症、安定期に意欲が出ないとき|陰性症状と家族の関わり方【Vol.92】


「薬もきちんと飲んでいて、体調も落ち着いているはずなのに、以前より何もしなくなった」「表情が乏しくなって、話しかけても反応が薄い」。統合失調症のあるご本人を支えているご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。

症状が落ち着いている時期にこうした変化が起きると、これは病気が悪くなっているのか、それとも怠けているだけなのか、判断がつかずに戸惑う方が多いと思います。良くなってきたはずなのにこれでいいのだろうかという不安と、これ以上どう声をかければいいのか分からないという戸惑いが、同時に来る場面だと思います。この記事では、公的な資料で確かめられる範囲の事実を整理したうえで、こうした変化が起きたときにご家族がどう関わればよいか、再発のサインとの見分け方、そして訪問看護が何をお手伝いできて何はお手伝いできないのかをお伝えします。

「前より何もしなくなった」「表情が乏しくなった」――それ、怠けではないかもしれません

統合失調症の症状というと、幻覚や妄想を思い浮かべる方が多いかもしれません。これらは周囲から見ても分かりやすく、体調の急変として気づかれやすい症状です。一方で、意欲がわかない、感情の動きが外に出にくい、会話が減るといった変化は、目立たないまま静かに進みます。周囲からは「やる気がない」「怠けている」ように見えてしまうことがあります。

特に、症状が落ち着いて数か月から数年たった時期に起きる変化は、ご家族にとって受け止めにくいものです。急性期の混乱を乗り越え、これからは元の生活に戻っていくはずだと考えていたところに、以前の姿とは違う「動かない本人」が現れるからです。この落差が、怠けや甘えといった見方につながりやすい背景にあります。

当ステーションでは、こうした変化を怠けや性格の問題として捉えないことを出発点にしています。詳しい理由は、このあとの章で公的な資料と合わせてご説明します。

この記事は、統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)そのものについて詳しく扱うものではありません。統合失調症全体の基礎知識については統合失調症の人を、家でどう支える?(Vol.50)にまとめていますので、あわせてご覧ください。ここでは、症状が安定している時期の日常に起きる、意欲や感情の変化という1つの場面に絞って整理します。

陰性症状とは何か――陽性症状(妄想・幻覚)との違い

厚生労働省「こころもメンテしよう」は、統合失調症の症状を二つに分けて説明しています。「統合失調症には、健康なときにはなかった状態が現れる「陽性症状」と、意欲や感情表現が減るなど、あったものが失われる「陰性症状」があります」。陽性症状は幻覚や妄想のように新しく現れる症状、陰性症状はもともとあった意欲や感情表現が失われていく症状、という整理です。

同じ資料は、陰性症状の具体例として「意欲がなくなり無気力になり、身の回りのことにかまわなくなる。」「感情が表に出にくくなり、いつも無表情で、喜怒哀楽がなくなる。」「友達や家族など人と関わることを避けて、閉じこもる。」と挙げています。厚生労働省「精神障害(精神疾患)の特性(代表例)」では「意欲が低下し、以前からの趣味や楽しみにしていたことに興味を示さなくなる。疲れやすく集中力が保てず、人づきあいを避け引きこもりがちになる。入浴や着替えなど清潔を保つことが苦手となる」とも説明されています。

感情の動きが表に出にくくなる状態には、感情鈍麻という専門用語もあります。「こころの耳」の用語集はこの状態について「統合失調症にみられる陰性症状のひとつで、感情表現が乏しくなり、情緒性や道徳感などが低下する程度から、快・不快、喜怒哀楽の感情反応が消失するものまでさまざまです」と説明しています。ご本人の表情が乏しいと感じたとき、それはこの感情鈍麻という症状の現れであることがあります。

「こころの耳」の用語解説はまた、「統合失調症には、健康なときにはなかった状態が表れる陽性症状(幻覚・妄想)と、健康なときにあったものが失われる陰性症状(意欲の低下、感情表現の減少)があります」とも整理しています。幻覚や妄想のように新しく現れる症状に比べ、意欲や感情表現の低下はもともとあったものが少しずつ目立たなくなっていくため、ご家族が病気の症状だと気づくまでに時間がかかりやすい面があります。

安定期に起きやすい変化――意欲低下・感情が乏しい・会話が減る

当ステーションでは、症状が落ち着き、通院と服薬が安定してきた時期に、ご家族からこうした変化についてのご相談をいただくことがあります。急に体調を崩したわけではないのに、以前のように動かなくなった、やる気が出ないと本人が口にする、会話が減った、といった内容です。

具体的には、以前は楽しんでいた趣味に手が伸びなくなる、身支度に時間がかかる、感情が乏しいように見えて笑ったり驚いたりする表情の変化が少なくなる、といった様子です。これらは前の章で確認した陰性症状の内容と重なるものです。安定している時期にこうした変化が続く場合、まずは症状のひとつとして落ち着いて見ていただきたいと考えています。

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)『訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編)』は、「急性期の幻覚や妄想などの症状がよくなり、日常の生活ができるようになることを『寛解(かんかい)』または『回復』といいます。しかし、その後に陰性症状や認知機能障害といった、生活のしづらい症状が残る人もいます」と説明しています。症状が落ち着いた後の時期に意欲の低下や感情の乏しさが続くのは、決めつけて悪いことが起きているわけではなく、こうして公的資料にも記載のある経過のひとつです。

会話が減ることも、よくご相談いただく変化のひとつです。以前は自分から話しかけてきたのに、最近は聞かれたことに短く答えるだけになった、というものです。厚生労働省の資料が挙げる「人づきあいを避け引きこもりがちになる」という状態と重なる部分があり、外出や人との関わりそのものが負担になっている可能性があります。無理に会話を引き出そうとするより、本人のペースに合わせて短いやり取りを重ねることを当ステーションではおすすめしています。

なぜ起きるのか――病気の症状であり、本人の性格や気持ちの問題ではない

先に確認したとおり、公的資料では陰性症状を「健康なときにあったものが失われる」統合失調症の症状として位置づけています。意欲や感情表現は、もともと本人に備わっていたものが、病気によって発揮されにくくなっている状態だということです。

NCNP『訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編)』は、ご本人への理解を深める章で「日常生活でだらしなく見える場面があったり、ご家族に当たり散らしたりすることもあるでしょう。それらが病気の症状、病気の結果生じた生きづらさにより起こっていると理解することが重要です」と述べています。「だらしなく見える」という表現は、意欲が出ない状態が周囲からどう映るかを表したもので、これを一般に「怠け」と受け取ってしまいやすいという意味で、当記事ではあえて「怠け」という言い換えを使っています。ここから、意欲が出ないことや感情の動きが乏しいことは、本人の意思の弱さや性格の問題ではなく、症状として起きていることだと理解することが、関わり方を考える出発点になります。

ご本人自身も、なぜ動けないのか、なぜやる気が出ないのかを自分でうまく説明できないことがあります。本人が一番困惑しているケースも少なくありません。「なぜやらないのか」と理由を問い詰めるより、「今は動きにくい時期なのかもしれない」という前提で見守るほうが、本人にとってもご家族にとっても負担が少なくなります。

「再発のサイン」と見分けるポイント

意欲の低下や感情の乏しさが続くと、これは再発の前触れではないかと心配になる方もいらっしゃると思います。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所「こころとくらし」は、再発の前に本人特有の注意サインが先行することがあるとして、「不眠が数日から数週間続く」「イライラ感が募ったり」「周囲の人を疑う気持ちが高まったり」といった例を挙げています。また厚生労働省「こころもメンテしよう」は「症状が軽くなってきたからといって、勝手に服薬を中断するのは厳禁です。再発の危険が高くなりますから、薬の調節については、お医者さんとよく相談しましょう」と説明しています。

ここで挙げた不眠やイライラ、周囲への疑いといったサインは限られた例であり、これがなければ再発ではないと判断できるチェックリストではありません。陰性症状としての意欲低下と、再発の前触れとの違いをご家族だけで見分けるのは難しい場面です。気になる変化があれば、自己判断せず主治医や訪問看護にご相談ください。再発のサインの見つけ方とクライシスプランの作り方については、精神科の入退院を繰り返すとき|家族ができる再発サインとクライシスプラン(Vol.72)で詳しく扱っています。

ご家族に求められているのは、陰性症状か再発の前触れかを見分けることそのものではなく、「以前と違う」という変化に気づき、それを主治医や訪問看護に伝えることです。判断そのものは専門職の役割であり、ご家族が背負う必要はありません。

焦って急かさない・比べない――家族の関わり方の基本

厚生労働省「こころもメンテしよう」は、家族の関わり方について「家族が病状に対して批判的な発言をしたり、逆に心配しすぎたりすると、かえって回復が遅れる場合があります」と説明しています。そのうえで「できるだけ平静さを保ちながら、本人のつらさをじっくりと受け止めていくことが大切です」としています。

「前はもっとできていたのに」と以前の本人と比べたり、「早くしなさい」と急かしたりすると、本人が追い詰められてしまうことがあります。周囲の同世代や兄弟姉妹と比べることも同じです。何もしていないように見える時間も、本人にとっては症状と向き合っている時間かもしれません。ご家族が平静さを保ちながら見守ることが、関わり方の基本になります。

NCNP『訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編)』は、避けたい声かけの例として「×『いつもゴロゴロしてばっかり!』」「×『そんなんだからダメなのよ!』」を挙げ、自立を妨げる言い方の例として「×『あなたは無理よ、病気なんだから』」「×『こんなんで働けると思っているの?』」を挙げています。焦りや心配から出てしまいやすい言葉ですが、こうした言い方は避けたい例として同ガイドに具体的に示されています。

もうひとつ大切なのは、ご家族の心配そのものを本人にぶつけすぎないことです。心配な気持ちを伝えること自体は自然なことですが、繰り返し体調を尋ねたり、行動のひとつひとつを気にかけていることが本人に伝わりすぎたりすると、本人が「監視されている」と感じてしまうことがあります。心配は持ちながらも、態度としては落ち着いて接することを心がけていただくとよいと思います。

小さくできたことを認める――「できない」ではなく「今はここまで」を見る

当ステーションでは、日々の関わりの中で、できなかったことよりも、今できていることに目を向けることをお伝えしています。例えば、朝起きられた、着替えができた、短い会話に応じられた、といった小さなことです。「これしかできない」ではなく「今はここまでできている」という見方に変えることで、本人にとってもご家族にとっても、日々の負担が少し軽くなることがあります。

これに近い考え方は、NCNP『訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編)』にも示されています。同ガイドは「明るく前向きな感情を示しましょう」という項で、ご本人が食器を洗ってくれたときの声かけとして「○『食器を洗ってくれたんだ、とても助かるな』」「×『そんなことしなくていいから、早く働いてちょうだい』」という例を挙げています。結果や成果を評価する言葉より、起きた事実をそのまま認める言葉のほうが、本人にとって受け取りやすいことがあるという例です。

主治医・訪問看護に伝えるとよいこと

診察の時間は限られていることが多く、本人が診察の場で「変わりないです」としか話さないこともあります。ご家族から見て気になる変化があれば、いつ頃からどんな様子か(例えば、いつ頃から何もしなくなったか、会話が減った時期、表情が乏しいと感じ始めた時期)をメモにしておくと、主治医に状況を伝えやすくなります。

訪問看護を利用している場合は、訪問時の様子と合わせて変化を共有することもできます。ご本人がいる場で話しにくい内容であれば、その旨も含めて看護師に伝えていただいて構いません。

伝える内容は、症状の重さを評価するようなものである必要はありません。「先週から朝起きる時間が遅くなった」「以前は見ていたテレビ番組を見なくなった」といった、日常の小さな変化で十分です。こうした具体的な変化の積み重ねが、主治医や看護師にとって状態を把握する手がかりになります。

訪問看護でできること

精神科訪問看護の役割について、一般社団法人全国訪問看護事業協会は、厚生労働省「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会報告書」を引用し、「精神科医療機関において継続して治療を受けることへの支援」「日常生活での困りごとの相談」「身体合併症の早期発見・管理」「精神科医療機関以外の関係機関からの相談に応じる」「医療との連携を促進すること等の役割」を担うとしています。

訪問看護は、意欲を回復させる薬効を持つものではありませんし、意欲低下や感情の乏しさをすぐに解消できるものでもありません。お手伝いできるのは、生活リズムや服薬の様子をうかがい続けること、体調の変化に早めに気づくこと、ご本人の同意を得たうえで主治医に様子を伝えること、そしてご家族からのご相談をうかがうことです。生活の土台を一緒に整えていくお手伝いはできますが、意欲が戻ることをお約束するものではありません。

また、意欲が出ない時期は、入浴や着替え、部屋の片付けといった身の回りのことが後回しになりやすい時期でもあります。訪問看護では、こうした生活面の様子も定期的にうかがい、無理のない範囲で一緒に整えていくお手伝いをしています。訪問看護のサービス内容全体については統合失調症のご家族へ|訪問看護でやっている3つのこと(Vol.29)で詳しくご紹介しています。

家族自身も消耗しないために

意欲が出ない本人を毎日見ていると、ご家族の側が「自分の関わり方が悪いのではないか」「もっとできることがあるのではないか」と自分を責めてしまうことがあります。ここまで見てきたとおり、意欲低下や感情の乏しさは病気の症状であり、ご家族の関わり方が原因で起きているものではありません。

ご家族が平静さを保ち続けるためには、ご家族自身の時間や相談先を持っておくことも大切です。ひとりで抱え込まず、主治医や訪問看護に日々の様子を共有していただくことも、消耗を防ぐひとつの方法です。ご家族だけで判断や対応を抱え込む必要はありません。統合失調症そのものについて基礎から確認したい方は、統合失調症の人を、家でどう支える?(Vol.50)もあわせてご覧ください。

おわりに

症状が落ち着いているのに以前のように動けない、表情が乏しくなった、というご様子は、怠けでも性格の変化でもなく、陰性症状という統合失調症の症状のひとつであることがあります。急かさず、比べず、できていることに目を向ける関わり方を基本にしながら、気になる変化があれば自己判断せず主治医や訪問看護にご相談いただくことをおすすめします。

変化に気づいたその日から何かを大きく変える必要はありません。まずは主治医への次の診察で様子を伝えることから、あるいは訪問看護を利用していればその場で相談することから、少しずつ始めていただければと思います。

府中よりそい訪問看護ステーションでは、精神科訪問看護を通じて、ご本人とご家族の生活の土台を整えるお手伝いをしています。初回のご相談は無料です。ご本人がまだ受診されていない段階でも、ご家族だけでご相談いただけます。交通費はいただいておりません。お電話(042-508-3434)またはお問い合わせフォームからご連絡ください。当ステーションについては会社紹介のページをご覧ください。

よくあるご質問

統合失調症で意欲が出ないのは、薬のせいですか、病気の症状ですか?

厚生労働省の資料では、意欲や感情表現が減ることは「陰性症状」として統合失調症の症状のひとつに位置づけられています。薬の影響で似たような状態になることもあり、その区別はご家族だけで判断できるものではありません。気になる場合は、自己判断で薬を調整せず、主治医にご相談ください。

何もしたがらない本人に、外出や家事を促してもいいですか?

急かしたり、以前の本人と比べたりすると、かえって負担になることがあります。厚生労働省の資料でも、批判的な発言や心配しすぎる関わりはかえって回復を遅らせる場合があるとされ、平静さを保ちながら受け止めることが大切だと説明されています。できたことに目を向けながら、本人のペースを尊重した関わりをおすすめします。

表情が乏しくなったのは再発の前触れですか?

表情の乏しさだけで再発と判断することはできません。国立精神・神経医療研究センターは、再発の前に不眠やイライラ、周囲への疑いの高まりといったサインが先行することがあるとしていますが、これは限られた例であり、網羅的な自己診断の基準ではありません。気になる変化があれば、自己判断せず主治医や訪問看護にご相談ください。

陰性症状は治療で改善しますか?

症状の経過には個人差があり、ここで一律に改善するとお答えすることはできません。治療方針は主治医が本人の状態を見ながら判断するものです。生活の中で気になる変化があれば、主治医や訪問看護に相談しながら経過を見ていくことをおすすめします。

訪問看護は意欲が出ない本人にどう関われますか?

訪問看護は、意欲を回復させる薬効を持つものではなく、治療効果をお約束するものでもありません。お手伝いできるのは、生活リズムや服薬の様子をうかがい続けること、体調の変化に早めに気づくこと、ご本人の同意を得たうえで主治医に様子を伝えること、そしてご家族からのご相談をうかがうことです。生活の土台を一緒に整えていくお手伝いをしています。

参考資料:
厚生労働省「こころもメンテしよう」 https://www.mhlw.go.jp/kokoro/parent/mental/know/know_03.html
厚生労働省「精神障害の特性(代表例)」 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/e-learning/seishin/characteristic.html
厚生労働省 こころの耳 用語解説 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1533/ ・ https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1657/
国立精神・神経医療研究センター「こころとくらし」再発のサイン https://cocokura.ncnp.go.jp/recurrence/technique-sign/
国立精神・神経医療研究センター『訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編)』 https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/documents/kazokushinrikyoikuhen.pdf
一般社団法人全国訪問看護事業協会 https://www.zenhokan.or.jp/mental-p-1/

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