
「お母さん(お父さん、夫、妻)が、うつ病と診断された」「『がんばれ』と言わない方がいいと聞いたけれど、本当に何を言えばいいのかわからない」「そっとしておけばいいのか、声をかけた方がいいのか、毎日迷っている」――府中市で精神科の訪問看護をしていると、うつ病のあるご家族からは、こうしたご相談をよくいただきます。
うつ病は、ご本人が薬と通院だけで完結する疾患ではありません。同じ家で暮らしておられるご家族が、長い時間、ご本人の眠れない夜・動けない朝・先の見えない不安と一緒に過ごし続けます。「自分が支えなければ」と気を張り続け、気づけばご家族の方が先にしんどくなってしまう――そんなご家族と、私たち訪問看護はたくさん出会ってきました。
この記事は、うつ病のあるご家族の方に向けて、府中よりそい訪問看護ステーションの看護師が、訪問でとくに大切にしている3つのこと、ご家族からよくいただくご相談、訪問の中身と費用についてお伝えするものです。ご本人ご自身が訪問看護を検討されている場合は、【Vol.21】うつ病の訪問看護でやっていること(ご本人向け)もあわせてご覧ください。
うつ病の訪問看護では、何をしてくれるの?
うつ病の訪問看護は、看護師がご自宅にうかがい、ご本人の体調と生活の両面に寄りそうケアです。府中よりそい訪問看護ステーションでは、訪問1回あたり30〜90分のなかで、次のようなことに取り組んでいます。
- バイタル測定と体調の確認(血圧・脈・睡眠・食欲・水分)
- 気分の波の確認(朝のつらさ・夕方の不安・自責感の強さ)
- 服薬の継続と、副作用が出ていないかのチェック
- 生活リズム(睡眠・食事・お風呂・外出)の振り返り
- 主治医に伝えるべき変化の整理と、診察への橋渡し
- ご家族の困りごと・接し方のご相談
- ご家族の負担感・つらさのケア
うつ病の訪問看護で、私たちが大切にしているのは、ご本人だけでなくご家族そのものも、ケアの対象として見ることです。「家族としてどう接していいかわからない」「ずっと張りつめていて、自分がしんどい」――そう感じておられる時間こそ、訪問看護がご一緒にお手伝いできる時間です。
訪問看護師が大切にしている3つのこと
うつ病のあるご家族への訪問看護で、府中よりそい訪問看護ステーションの看護師が、特に大切にしているのは次の3つです。
① 「がんばれ」を、いったん封印する
「がんばれ」「気のもちようだよ」「もっと前向きに考えよう」「みんな同じくらいつらいよ」――励ましやアドバイスは、それを言うご家族の優しさそのものです。けれど、うつ病のさなかにいるご本人にとっては、「もう十分がんばっているのに、まだ足りないと言われた」と受けとめられてしまうことがあります。
うつ病は、心の弱さではなく、脳の疲れ切った状態です。布団から起き上がること、ご飯を食べること、お風呂に入ること――それぞれが、健康な時の何倍ものエネルギーを必要とします。今、起き上がれていないこと、外に出られないことは、サボっているわけではありません。すでに、その人ができる最大限のことをしている状態です。
訪問看護では、ご家族にこんな声かけのご提案をしています。
- 「最近、どう?」(評価のない、開かれた質問)
- 「無理しなくていいよ」(許可を渡す言葉)
- 「ここにいるよ」(存在の保証)
- 「今日のこの時間、一緒にいていい?」(押しつけのない同伴)
- 「答えなくていいから、聞いてもいい?」(沈黙を許す合図)
「何か言わなくては」と思うと、励ましやアドバイスに偏りがちです。「何も言わずに、隣にいる」だけで、十分なケアになる――この事実をお伝えするのが、訪問看護の役割のひとつだと思っています。
② ご家族の「いつまで?」「再発するの?」に並走する
うつ病のご家族から、もっとも多くいただくご相談がこれです。「この状態は、いつまで続くんですか」「治ったように見えても、また再発するんでしょうか」「復職できるようになるのは、いつごろですか」――先の見えなさは、ご家族にとって何よりつらい時間です。
うつ病の経過は、ひとりひとり違います。お薬がよく効いて数か月で安定する方もいれば、お薬の調整に1年以上かかる方もいます。再発のリスクは、最初の1年でもっとも高いと言われていますが、適切な治療を続けることで、再発の頻度や重さを軽くしていくことができると考えられています。
訪問看護では、こうした見通しを、ご本人の症状の経過とあわせてご家族にお伝えします。たとえば、
- 「今は急性期と呼ばれる、もっともしんどい時期です」
- 「眠れる時間が増えてきました。回復の入り口に入っています」
- 「ここから3か月くらいは、無理に動かさずに守る時期です」
- 「いまは復職を考えるタイミングではないので、まずは1日のリズムを整えましょう」
こうした「いま、どこにいるか」の言語化が、ご家族の不安を少し軽くします。先が見えないのではなく、「いまここに立っている」ことがわかれば、待つ時間にも意味が出てきます。
主治医の診察は限られた時間です。診察室では聞きにくかった「実は気になっていること」を、訪問の中でていねいにうかがって、必要があれば主治医に橋渡しもします。ご家族と主治医のあいだに、訪問看護師が立つことで、治療の方向性が共有されやすくなります。
③ ご家族が共倒れにならないための「休息設計」
うつ病のご本人を支えるご家族が、「自分の方が先にしんどくなってしまった」「気づいたら、自分も眠れなくなっていた」――そう打ち明けてくださる場面に、訪問看護では何度も出会ってきました。支える側のご家族が倒れてしまうと、結果として、支えられる側のご本人がもっと困ります。ご家族のセルフケアは、ご家族のためであり、同時にご本人のためでもあります。
訪問看護では、ご家族と一緒に「休息設計」をご相談します。「休息」と書くと、家族なのに休んでいいのか、と感じられるかもしれません。けれど、うつ病の介護は、目に見えるリハビリや身体介護がないぶん、終わりが見えにくく、ご家族の心が休まる時間が極端に少なくなりがちです。
具体的には、こんな形のご相談をしています。
- 訪問看護を週に1回入れて、その時間はご家族が外出する
- 主治医・ケアマネ・職場・ご家族の役割を整理し、抱え込みを減らす
- ご家族会・ピアサポートなど、同じ経験をした人とつながれる場の情報提供
- ご家族自身の睡眠・食事・通院(必要なときの心療内科受診)の見守り
- 「自分のせいで悪化したのではないか」という自責感のケア
「自分のこころも、誰かに預けていい」――これをお伝えできるのが、訪問看護の役割のひとつです。預けていい場所は、主治医・ケアマネ・訪問看護師・ご家族会・地域の精神保健福祉センターなど、ちゃんとあります。ひとりで抱え込まないでくださいね、というメッセージを、訪問のたびにお伝えしています。
30分の訪問でやっていること(ご家族が関わる場面)
うつ病の訪問看護は、ふつう30〜90分の中で、次のような流れで進みます。ご家族の関わり方は、ご本人とご家族の状況によって変わります。
- ご本人とのご挨拶(5分) — お顔の様子・声の張りを観察します。ご家族の同席はご希望に応じます。
- 体調確認とお話をうかがう時間(15〜20分) — 睡眠・食欲・気分の波・困っていることをご本人のペースで。話したくない日は、無理にうかがいません。
- 服薬と生活の振り返り(5〜10分) — お薬カレンダーの確認、生活リズムのご相談。
- ご家族との時間(5〜15分) — ご家族のお困りごと、接し方のご相談、主治医に伝えるべき内容の整理。
- 次回の小さな目標(3〜5分) — ご本人と一緒に「次の訪問までに、これだけ」を決めます。
ご家族とのお話の時間は、ご本人がいる場でも、別室でも、訪問の前後どちらでもかまいません。「ご本人には聞かれたくない不安がある」という場合も、よくおっしゃいます。訪問看護師は守秘義務がありますので、ご家族からうかがったお話を、ご本人に伝えるかどうかは必ずご相談したうえで決めます。
「ご家族だけでお会いしたい」というご希望もうかがいます。府中よりそい訪問看護ステーションでは、ご本人不在の場面でも、ご家族のご不安や接し方のご相談を、丁寧におうかがいできる時間を設けています。
主治医・産業医・ご家族との連携
うつ病の治療は、主治医ひとりで完結するものではありません。とくに休職・復職をはさむ方の場合、職場の産業医・人事との連携も重要になります。府中よりそい訪問看護ステーションでは、主治医に毎月の訪問看護報告書をお出しするほか、必要に応じて次のような連携をしています。
- 主治医への報告書(毎月/重要な変化があったときは随時)
- ご家族から主治医への質問・相談の橋渡し
- ケアマネ・相談支援専門員との連絡(介護保険・障害福祉サービス利用の方)
- 産業医・人事との情報共有(ご本人の同意を得たうえで/復職支援の場面で)
- ご家族の心療内科受診への情報提供(ご家族自身がしんどくなった場合)
とくに、ご家族と主治医のあいだに立つ役割は、訪問看護がもっとも力を発揮できる場面のひとつです。ご家族が抱えている「実は気になっていたけれど、診察室では聞けなかったこと」を、訪問の場で言葉にしていただき、それを主治医にお伝えします。「先生に直接は言いにくい」を、訪問看護師が翻訳して届ける――それが、ご家族と医療をつなぐ仕事だと考えています。
当ステーションは、認知症専門医の青栁先生と連携しており、うつ病・認知症・精神科領域の訪問看護指示書発行から日々の臨床相談まで、一貫した体制で対応しています。「主治医の先生が訪問看護指示書を書いた経験がない」「主治医とは別に、訪問看護のための医師との連携が必要」といった場合も、ご相談に応じています。
うつ病の訪問看護にかかる費用と保険
うつ病で精神科の訪問看護をご利用になる場合、原則として医療保険が使えます。介護保険ではなく医療保険になることが、ご家族にとって意外なポイントとしてよく挙がります。
- 医療保険(精神科訪問看護) — 主治医(精神科・心療内科)の指示書があれば、年齢を問わず利用できます。要介護認定を受けていなくても利用できます。
- 自立支援医療(精神通院医療) — 精神科の訪問看護をご利用になる方の多くが、自立支援医療を申請して1割負担でケアを受けておられます。お住まいの市区町村に申請することで、医療費の自己負担が原則1割になり、所得に応じて月額の上限額も設定されます。
- 自己負担の目安 — 自立支援医療をご利用の場合、1回あたり 800〜1,000円前後(30分の訪問の場合)。所得に応じて月額の上限額があるため、それ以上はかかりません。
自立支援医療を併用すると、訪問看護1回あたりのご家族の自己負担を抑えやすくなります。たとえば月額上限が5,000円に設定されている方の場合、月に4回訪問しても、ご家族が支払う上限は5,000円までです。「経済的にどこまで続けられるか心配」というご家族こそ、申請をおすすめしています。
申請の手続きは、主治医に診断書を書いていただき、お住まいの市区町村の障害福祉課に提出します。府中市の方は、府中市障害者福祉課が窓口です。書類の準備が大変なときは、訪問看護師が記入のお手伝いをすることもできます。訪問のなかで一緒に書類を整理していくことができますので、ご家族だけで抱え込まず、訪問の機会にお声かけください。
府中よりそい訪問看護ステーションの特徴
府中市・調布市・国分寺市・小金井市など、多摩エリアでうつ病のある方とご家族を支える訪問看護ステーションとして、府中よりそい訪問看護ステーションには次のような特徴があります。
- 精神科・認知症ケアに特化したチーム — うつ病・統合失調症・双極性障害・認知症・発達障害など、こころの領域を中心に経験を積んだ看護師が訪問しています。
- 青栁先生(認知症専門医)との連携 — 訪問看護指示書の発行から日々の臨床相談まで、医師との一貫した体制でご家族を支えます。
- ご家族支援を大切にしています — ご本人だけでなく、支えるご家族の声に、ていねいに向き合う時間を持っています。
- 主治医・産業医との連携実績 — 復職支援の場面で、主治医・ご家族・職場のあいだの情報共有をお手伝いします。
- 地域密着 — 府中市・調布市・国分寺市・小金井市・三鷹市など、多摩エリアを中心に訪問しています。
まとめ — うつ病のご家族へ、お伝えしたい3つのこと
長くなりましたが、うつ病のご家族にいちばんお伝えしたいことを、最後に3つにまとめます。
- 「がんばれ」を、いったん封印してください。 「最近、どう?」「無理しなくていいよ」「ここにいるよ」。励ましの代わりに、許可と存在の保証を渡してあげてください。
- 「いつまで?」の不安に、ひとりで答えを出さないでください。 主治医・訪問看護師が一緒に考えます。「いま、どこにいるか」が言葉になると、待つ時間にも意味が出てきます。
- ご家族のこころも、誰かに預けてください。 ひとりで抱え込まないこと。預けていい場所は、ちゃんとあります。ご家族が共倒れにならないことが、結果としてご本人を守ります。
うつ病は、ご本人ひとりの病気ではなく、ご家族と一緒に向き合う病気です。だからこそ、訪問看護はご本人だけでなく、ご家族そのものをケアの対象として見ています。府中市・調布市・国分寺市・小金井市・三鷹市など多摩エリアで、うつ病のあるご家族の支援が必要なときは、府中よりそい訪問看護ステーションにご相談ください。
よくいただくご質問
Q1. 本人が訪問看護を嫌がっています。それでも依頼できますか?
うつ病のご本人が「人に会いたくない」と訪問看護を拒まれることは、決して珍しくありません。府中よりそい訪問看護ステーションでは、まずご家族のみでご相談いただいて、ご本人にはタイミングを見ながら少しずつご紹介していく、という形を取ることもあります。最初の数回は「玄関先での挨拶だけ」「ご家族と話しているのを横で聞いていただくだけ」というところから始めて、信頼関係を作っていきます。「無理に部屋に入らない」「無理に話を引き出さない」――そのスタンスは、訪問看護師の基本です。
Q2. 「がんばれ」と言わないで、ほかに何を言えばいいですか?
本文でもご紹介しましたが、おすすめは「最近、どう?」「無理しなくていいよ」「ここにいるよ」「答えなくていいから、聞いてもいい?」の4つです。共通しているのは、評価をしないこと・許可を渡すこと・存在を保証することです。「がんばれ」「もっと前向きに」「みんな同じくらいつらいよ」など、評価や比較が入る言葉は、うつ病のさなかでは追い詰めの言葉として届いてしまうことがあります。何を言うかより、「何も言わずに、隣にいる」だけで十分なケアになることも、覚えておいてください。
Q3. ご家族だけで相談に行ってもいいですか?
もちろんです。ご家族だけのご相談、大歓迎です。府中よりそい訪問看護ステーションでは、ご本人の正式な訪問看護開始前に、ご家族のみでお話をうかがう時間を設けることもあります。「主治医に何を聞けばいいか整理したい」「ご本人に直接は言えない不安を、まず誰かに話したい」「ご家族として、これからどう関わればいいかの全体像をつかみたい」――こうしたご相談に、看護師がていねいにお応えします。お電話・お問い合わせフォームから、まずはご家族のみでも、ぜひお声がけください。
Q4. 復職のタイミングは、ご家族としてどう判断すればいいですか?
復職のタイミングは、ご本人の主治医と職場の産業医がご一緒に判断する事項です。ご家族はその判断の外に立っていて大丈夫です。ご家族が見るのは、「日常生活のリズムが戻ってきたか」「人と会うことに耐えられるようになってきたか」「自分から外に出る回数が増えてきたか」といった暮らしの回復のサインです。これらが見えてきたら、訪問看護師にお伝えください。主治医にも共有して、復職プログラム(リワーク)の相談につなげていきます。焦らないことが、結果としていちばんの近道です。再発を防ぐためにも、回復の最初の数か月は、復職を急がず、生活のリズムを取り戻す時期と考えてください。
