
「同じ質問を何度もするようになった」「お薬を飲み忘れる日が増えた」「夜になるとそわそわして落ち着かない」——認知症のあるご家族を支える方から、訪問のたびによく聞くお話です。
この記事は、認知症という病気そのものの解説ではありません。「認知症のある方のお宅を訪問する看護師が、毎回どこを見ていて、どんな関わり方をしているか」——そういう、現場の目線からの記事です。府中市で精神科・認知症ケアに力を入れている府中よりそい訪問看護ステーションから、日々の訪問でしていることをお伝えします。
訪問看護師が毎回見ている、3つのこと
訪問看護では、血圧や体温を測ることがケアの中心だと思われがちですが、認知症のある方のお宅では「バイタル測定の前後で交わす何気ない会話から見えてくること」をとても大切にしています。看護師が毎回見ているのは、次の3つです。
1. 「いつもと違う」小さな変化
今日は何月何日かが分からない、いつもの曜日感覚がずれている、昨日のことを覚えていない——こうした認知の変化は、少しずつ進むことが多いため、ご家族は気づきにくいことがあります。
訪問看護師は、毎回同じ話題を振りながら、さりげなく確認していきます。
- 「今日は何日でしたっけ」「今、何時くらいですか」——時間・日付の感覚
- 「昨日の夕飯は何を食べましたか」——直近の記憶
- 会話のつながり方(同じ話が何度も出るか、話の順序が飛んでいないか)
- 表情や声のトーン(普段より硬い・ぼんやりしている・言葉が出にくい)
「間違えた答えを責めない」ことが何より大切です。検査のように確認するのではなく、自然な会話のなかで変化を受けとめることを意識しています。
2. 暮らしのリズム
認知症のある方の状態は、日々の生活のリズムと密接につながっています。次のような項目を訪問のたびに見ています。
- 食事:いつ・何を・どれくらい食べたか。食欲はあるか、むせずに飲み込めているか
- 水分:脱水は認知症の症状を一時的に強めることがあるため、水分がとれているかを確認
- 睡眠:眠れているか、昼夜が逆転していないか、夜間に起きて歩き回ることが増えていないか
- 排泄:トイレの回数、失禁の有無、便秘の様子
- 外出・活動量:どれくらい体を動かしているか、閉じこもりがちになっていないか
これらの情報は、ご本人やご家族から直接お聞きするだけでなく、冷蔵庫やゴミ箱の様子、お部屋のにおいや片付き具合など、生活環境全体から読み取っているのが特徴です。
3. 「今日の言葉」と気分
認知症のある方が訪問の場で口にされる言葉は、その日のコンディションを映し出します。
- 「物がなくなる」「誰かに盗られた気がする」——不安が強まっているサインのことがあります
- 「昔の家に帰りたい」「仕事に行かないと」——見当識の揺れや、落ち着かない気持ちが背景にあることがあります
- 「わからない」「もう面倒」——意欲の低下やうつ症状が重なっていることがあります
こうした言葉を、「間違い」として訂正するのではなく、ご本人の気持ちをそのまま受け取るようにしています。気分が落ち着いている日、不安が強い日、無口な日——その違いを毎回見ていることで、病状の変化や対応の工夫を考えやすくなります。
訪問中にしている、具体的な関わり方
訪問時間は1回30分程度。その短い時間の中で、看護師は次のような関わりを重ねています。
お薬の見守りと、飲み忘れがある日の対応
認知症のある方にとって、お薬を指示通りに続けることは、時にとても難しいことです。訪問看護師は、お薬カレンダーやお薬ボックスの残りを確認し、飲み忘れや重複服用がないかを一緒に見ていきます。
飲み忘れがあった日は、ご本人を責めるのではなく、「次はどう工夫したら続けやすいか」を一緒に考えます。そして気になる変化があれば、主治医にお繋ぎして相談します。お薬の調整自体は医師の判断になりますが、日々の様子を主治医に共有する橋渡しが看護師の大切な役割です。
同じ話の繰り返しに「はじめて聞いた顔」で応える
ご家族が何よりも疲れやすいのが、同じ話や同じ質問の繰り返しです。「さっきも言ったでしょう」とつい言ってしまい、後で自分を責めてしまう——そんな声をよく耳にします。
訪問看護師は、同じ話を聞くときも、毎回はじめて聞いた顔で受け取ることを心がけています。それはご本人にとって、「ちゃんと聞いてもらえた」という安心感につながります。「さっき言ったのでは?」と確認するよりも、繰り返しの背景にある”気がかり”に寄り添うことが、結果として落ち着きにつながることがあります。
暮らしの環境を、小さく整えるご提案
認知症のある方が、ご自宅で少しでも穏やかに過ごせるよう、環境面での工夫をご提案することもあります。
- よく使うもの(眼鏡・時計・リモコン)を決まった場所に置く
- カレンダーや時計を、目につきやすい高さ・位置に変える
- トイレまでの動線に、分かりやすい目印(貼り紙や矢印)をつけておく
- 夜間に起きたとき、暗くて転ばないように足元のセンサーライトを使う
どれも特別なことではなく、ご家族と一緒に「うちの場合はどうしよう」と考えていく取り組みです。
ご家族と短い時間でも言葉を交わす
訪問看護では、ご本人だけでなく、支えるご家族の様子も気にかけています。訪問の終わりに少しだけご家族と話す時間をとり、「最近眠れていますか」「おひとりで抱え込んでいませんか」と声をかけることもあります。
ご家族のお疲れが見えたときは、デイサービスやショートステイなどのレスパイト(休息)サービスについて情報をお伝えしたり、ケアマネジャーさんにつないだりすることもあります。認知症の介護は長く続くからこそ、「ご家族が倒れないこと」もケアの一部だと考えています。
ご家族向けの具体的なヒントは、Vol.16 精神科訪問看護で家族ができること|介護疲れを減らす5つのヒントでも詳しくお伝えしています。
認知症専門医との連携
府中よりそい訪問看護ステーションは、認知症専門医である青栁先生と連携してケアを行っています。訪問で気づいた日々の変化は、必要に応じて青栁先生にご相談し、主治医の先生とも情報を共有しながら、在宅での暮らしを支える体制を取っています。
認知症は、症状の進み方や出方にひとりひとり違いがあります。看護師が訪問で見た「小さな変化」「気になる様子」を、医師と共有できる体制があることは、ご本人・ご家族にとっての安心につながると考えています。
よくあるご質問
Q. 本人が訪問看護を嫌がっています。どうすれば?
認知症のある方は、見知らぬ人が家に入ることへの不安を感じやすいことがあります。初回は短い時間でお顔合わせだけにする、ご家族と一緒に少しお茶を飲むところから始める——そういった「慣れていただく時間」を大切にしています。無理に話を進めず、ご本人のペースに合わせながら関係をつくっていきます。
Q. 介護保険と医療保険、どちらで利用できますか?
認知症の方の訪問看護は、原則として介護保険が優先されます。要介護認定を受けている場合は、ケアマネジャーさんと相談しながらケアプランに組み込みます。一方、認知症に加えて、ほかの精神疾患が重なっている場合などは、主治医の判断により医療保険での利用になることもあります。詳しくは、主治医の先生や府中よりそい訪問看護ステーションにご相談ください。
Q. 認知症の初期段階でも訪問看護を使えますか?
はい、初期の段階からご利用いただけます。早い段階から関わらせていただくことで、ご本人・ご家族と信頼関係を築く時間がつくれます。症状が進んだときに「この看護師さんなら大丈夫」という安心感があると、ご本人もケアを受け入れやすくなることが多いです。
Q. 訪問の頻度は、どれくらいが一般的ですか?
週に1〜2回、1回あたり30分程度が一つの目安です。症状の変化やご本人・ご家族のご希望に合わせて、ケアマネジャーさんや主治医と相談しながら頻度を決めていきます。状態が不安定なときは一時的に頻度を増やし、落ち着いてきたら減らす——そんな柔軟な調整もできます。
まとめ——毎回の訪問で「小さな変化」を受けとめていく
認知症のある方への訪問看護でいちばん大切にしているのは、目の前のご本人の「今日」をそのまま受けとめることです。昨日より少し言葉が出にくくても、同じ話が何度も繰り返されても、それがその日のご本人です。看護師は、その変化を見守りながら、必要があれば主治医につなぎ、ご家族と一緒にこれからを考えていきます。
ご自宅で認知症のある方を支えていて、「これって訪問看護に相談できることかな」と迷っている方は、お気軽にお問い合わせください。
府中よりそい訪問看護ステーション
電話:042-508-3434
受付時間:平日 9:00〜18:00
