
適応障害と診断されて、家族が休職しました。会社に行かなくなってしばらく経つと、家では思ったより普通に見える。朝は起きてくるし、テレビを見て笑うこともある。買い物にも出かける。それを見ているうちに、「本当に休む必要があるのだろうか」という考えが、ふと頭をよぎる。そして、そんなふうに思ってしまった自分に嫌気がさす。そんな日が続いていませんか。
この記事は、適応障害で休職している方を支えているご家族に向けて書いています。ご本人の治療の話ではなく、そばにいるご家族が抱えやすい戸惑いと、復職をめぐって知っておくと少し楽になることを中心に整理しました。
先にお伝えしておきます。この記事は「訪問看護を使ってください」というご案内ではありません。適応障害の休職期にご家族がいちばん必要としているのは、看護の契約ではなく、正確な情報と、話せる相手であることも多いからです。公的な相談窓口のほうが合う場合もありますし、私たちが合わないこともあります。その前提で、選ぶための材料をお伝えします。
なお、うつ病で休職している方を支えるご家族に向けては、うつ病で休職中の家族へ|共倒れしないために大切な5つのこと【Vol.74】で、ご家族自身の消耗を減らす工夫と、府中市・多摩地域の相談窓口をまとめています。この記事では、適応障害という診断名がついたときに特有の悩みに絞ってお話しします。
適応障害で休職中のご家族へ|「家では元気そうに見える」と感じていませんか
適応障害で休職している方を支えるご家族から、よくうかがう戸惑いがあります。それは、家にいるときの様子と、診断名との間に、ずれを感じてしまうということです。
会社の話になると表情がこわばるのに、それ以外の時間はわりあい落ち着いている。友人と会う約束はできるのに、出社はできない。そういう場面を見ていると、ご家族の中に「怠けているのではないか」という気持ちが浮かぶことがあります。そして次の瞬間、病気の家族に対してそんなことを考えた自分を責める。この行ったり来たりが、ご家族をとても疲れさせます。
この戸惑いは、ご家族の性格や愛情の問題ではありません。適応障害という状態の成り立ちを知ると、なぜそう見えるのかが整理しやすくなります。順番にお話しします。
適応障害とうつ病は、何が違うのか
厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」の用語集では、適応障害について次のように説明されています。
環境変化によるストレスが個人の順応力を越えた時に生じる情緒面および行動面の不調です。うつ病など他の精神疾患の診断がつくには至っていない状態です。薬物療法も行われますが、環境調整、環境に慣れること、個人の順応力が増えることなどが状態の回復に重要です。
厚生労働省「こころの耳」用語集(https://kokoro.mhlw.go.jp/glossary/)
ここから、ご家族にとって大事な点が2つ読み取れます。
ひとつは、ストレスのもとになっている環境が、ある程度はっきりしているということです。多くの場合それは職場ですが、異動、転勤、昇進、人間関係の変化など、きっかけはさまざまです。原因が特定しやすいぶん、ご家族も「あの部署に変わってからだ」と見当がつくことが多くなります。
もうひとつは、回復に重要とされているのが薬だけではないという点です。上の説明では、環境調整、環境に慣れること、順応力が増えることが挙げられています。つまり、環境との関係を組み直していく時間そのものが、回復の過程に含まれていると考えられています。休職は「何もしていない期間」ではなく、その組み直しのために置かれた時間だと理解すると、見え方が少し変わってくるかもしれません。
なお、うつ病そのものの特徴や、ご本人への接し方の基本については、うつ病の人を、家でどう支える?|知っておきたい基礎知識と、本人・家族にできること【Vol.44】で扱っています。診断名がどちらであっても共通する部分は多いので、あわせてご覧ください。
職場を離れると元気そうに見えるのは、なぜか
先ほどの説明にあったとおり、適応障害はストレスのもとになる環境との関係で生じる不調とされています。その環境から距離が置かれれば、症状が軽くなって見えることがあるのは、この考え方からすれば不自然なことではありません。
ですから、家で笑っている姿を見て「治ったのでは」と思うのも、「では会社に行けるはずだ」と考えたくなるのも、ご家族としては自然な流れです。ただ、休職中に見えている状態は、負荷がかかっていない状態での様子だと考えられる、という点は押さえておいていただきたいところです。同じ人が、同じ場所に戻ったときにどうなるかは、家での様子だけでは測りきれません。
「元気そうに見える」ことと「働ける」ことの間には、まだいくつかの段階があります。その段階をどう踏むかは、後ほど復職のところでお話しします。
ご家族が「会社への怒り」を抱えたときに起きること
適応障害の場合、原因が職場にあると見当がつくぶん、ご家族の気持ちが会社に向かうことがあります。あの上司のせいだ、あんな働かせ方をされなければ、と考えはじめると、止まらなくなることもあります。その怒りは、大切な人が傷つけられたと感じたときに湧いてくる、ごく自然なものだと思います。
ただ、その怒りを会社に直接ぶつける前に、知っておいていただきたいことがあります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」について、こころの耳では次のように紹介されています。
この手引きでは、職場の産業医や人事労務管理者などが、本人を経由して主治医と連携し、職場復帰支援を進めていく手順を紹介しています。
厚生労働省「こころの耳」職場復帰のガイダンス(https://kokoro.mhlw.go.jp/return/return-worker/rw002/)
やりとりの流れが本人を経由する形で組まれていることがわかります。ご家族が会社と直接やりとりをすると、この流れの外側から別のルートができてしまい、ご本人が板挟みになることがあります。「家族が乗り込んできた」という受け止められ方をして、復職後の人間関係に影を落とす場合もあります。
もちろん、ご本人が動けない状態のときに、ご家族が窓口になる必要がある場面はあります。その場合も、まずご本人と主治医に相談したうえで、どこまでを誰が伝えるかを決めておくと、あとの負担が減ります。怒りを抱えること自体は問題ではありません。それをどこに置くかを、ご家族おひとりで決めなくてよいということをお伝えしたいのです。
復職の時期は、誰がどう決めるのか
ご家族から最も多くいただく質問のひとつが、復職の時期をどう考えればよいか、というものです。こころの耳の職場復帰のガイダンスには、次のように書かれています。
症状が軽快し、早く復帰したいと思うこともあるかもしれませんが、その場合でも職場復帰のタイミングを図ることは大切です。自分の判断だけで話を進めるのではなく、主治医によく相談しましょう。
厚生労働省「こころの耳」職場復帰のガイダンス(https://kokoro.mhlw.go.jp/return/return-worker/rw001/)
同じページには、こうも書かれています。
焦って職場復帰を試みても、症状が再び悪化して、結果的に再休業に至ったりしてしまうと、そのまま休業を継続していた場合よりも働けない期間が長くなってしまうこともあります。
厚生労働省「こころの耳」職場復帰のガイダンス(https://kokoro.mhlw.go.jp/return/return-worker/rw001/)
整理すると、復職の時期は、ご本人と主治医の相談を土台に、職場の産業医や人事労務の担当者が加わって決めていくものとして組まれています。ご家族は、この判断の主役ではありません。これは冷たい話ではなく、ご家族が「まだ早い」「もう大丈夫」を判定する立場を引き受けなくてよい、という意味でもあります。
また、こころの耳では、職場によっては復職を認める回復の目安を定めている場合があるとして、「1日中机の前に落ち着いて座っていられる」「日中の眠気をやり過ごせる」といった例が挙げられています。就業規則や社内の制度は職場ごとに違うため、休業が認められる期間や手続きも含めて、勤務先の定めを確認しておくと見通しが立てやすくなります。
ご家族が「回復の判定役」を引き受けてしまうことの負担については、うつ病で休職中の家族へ【Vol.74】でも取り上げています。診断名が違っても、この点は共通しています。
同じ職場に戻ると再発するのでは、と不安なとき
これも、適応障害の休職でご家族が抱えやすい不安です。原因が職場にあるなら、同じ場所に戻れば同じことが起きるのではないか。もっともな心配だと思います。
ここで手がかりになるのが、先ほどの用語集にあった「環境調整」という言葉です。戻る先の環境を、元のままにしておかないという考え方があります。こころの耳の用語集では、事業者の側の対応として次のように説明されています。
事業者は、健康障害防止の観点から、健康診断や長時間労働者に行う面接指導の結果に基づいて、医師(産業医等)から意見を聴き、就業場所の変更、作業の転換等の必要な措置を講じることが求められています。
厚生労働省「こころの耳」用語集「適正配置」
つまり、就業場所を変える、担当する業務を変えるといった調整は、制度の枠組みの中で想定されているものです。「同じ部署に戻るしかない」と決まっているわけではありません。どこまで実現できるかは職場の状況によりますが、相談してよいことであるという点は知っておいて損がありません。
また、いきなり出勤するのではなく、段階を踏む方法もあります。こころの耳の用語集では、通勤訓練について「自宅から職場の近くまで通常の出勤時間、出勤経路で出勤をシミュレーションします」と説明され、通勤に必要な体力の確認や生活リズムを整える効果が期待できるとされています。こうした準備の進め方も、主治医や職場と相談しながら組み立てていくものです。
診断名が変わることがあります
もう一度、用語集の説明に戻ります。適応障害は「うつ病など他の精神疾患の診断がつくには至っていない状態です」と説明されていました。この一文は、ご家族にとって大事な意味を持っています。
経過を見ていく中で、診断名が見直されることがあります。最初は適応障害と言われていたのに、あとからうつ病と伝えられた。逆に、より軽い見立てに変わることもあります。そのときご家族が「話が違う」「前の診断は間違いだったのか」と感じてしまうことがありますが、時間の経過とともに見立てを更新していくこと自体は、経過を見るという診療の進め方に沿ったものと考えられます。
診断は主治医が行うものですので、私たち訪問看護の側から診断名について申し上げることは差し控えています。ただ、診断名が変わったときに戸惑うご家族が少なくないことは、あらかじめお伝えしておいたほうがよいと考えています。気になることがあれば、次の受診のときに主治医へ率直に尋ねていただくのがいちばん確実です。
ご家族だけで相談できる場所はあります
ご本人が相談に消極的なとき、ご家族だけで相談してよいのだろうかと迷う方がいらっしゃいます。厚生労働省「こころの耳」の「ご家族にできること」には、次のように書かれています。
本人が相談することにハードルを感じているときや、本人があまり語らないときは、まずはご家族が相談してみるのも一つの方法です。
厚生労働省「こころの耳」ご家族にできること(https://kokoro.mhlw.go.jp/families/)
同じページでは、ご家族でも相談できる社内相談窓口や外部の相談窓口を設けている会社があるため、社内報やホームページを確認してみるとよいことも案内されています。勤務先にそうした窓口がない場合の相談先として、こころの耳の相談窓口も挙げられています。
府中市・多摩地域の公的な相談窓口については、うつ病で休職中の家族へ【Vol.74】に、それぞれの公式情報を確認したうえでまとめてあります。適応障害の場合でも、ご家族の相談先としての使い方は変わりません。そちらをご覧ください。
また、ご本人が受診や支援を受けることに抵抗を示している場合の考え方は訪問看護を本人が拒否したら?説得しない関わり方と、再開までの道【Vol.64】で、ご家族だけで訪問看護に相談できるかという点は精神科訪問看護は家族だけで相談できる?【Vol.61】で扱っています。
支えているご家族自身が限界に近いと感じているときは、家族が「もう限界」と思ったとき|共倒れしないために知っておきたい選択肢【Vol.53】もあわせてご覧ください。
訪問看護は、適応障害の方に関われますか
制度の話としてお答えします。精神科訪問看護を利用するには、精神科を担当する主治医が交付する訪問看護指示書が必要です。診断名だけで利用の可否が決まるわけではなく、主治医が訪問看護による支援が必要と判断し、指示書を交付するかどうかが起点になります。ですから、適応障害という診断名であっても、まずは主治医にご相談いただくことが最初の一歩になります。
訪問看護で実際に行っている内容については、適応障害の訪問看護でやっていること|看護師が大切にしている3つのことで説明しています。あわせて、ご家族から多くいただく質問はご家族からのよくある質問10|精神科訪問看護Q&A【Vol.35】にまとめてあります。
そのうえで、繰り返しになりますが、休職中のすべての方に訪問看護が必要というわけではありません。通院と職場の産業保健の仕組みで十分に進んでいく場合もありますし、ご家族が求めているものが看護ではなく情報や相談先である場合もあります。府中市には、ほかにも訪問看護ステーションがあります。私たちが合わないこともありますので、いくつか比べてお選びいただければと思います。
おわりに|見えている姿だけで、判断しなくて大丈夫です
適応障害の休職期は、ご家族にとって、目に見える状態と診断名の間で気持ちが揺れやすい時期です。家で元気そうに見える日があっても、それは回復の途中で起こりうることですし、そう見えたからといってご家族が復職の判断を背負う必要はありません。
復職の時期は主治医と職場の仕組みの中で決めていくもの、戻る環境は相談してよいもの、診断名は経過の中で見直されることがあるもの。この3つを知っているだけでも、ご家族が抱え込む部分はいくらか減るはずです。
それでも、しんどさが続くときは、ご家族だけで相談していただいて構いません。お問い合わせフォーム、またはお電話(042-508-3434/平日9:00-18:00)でご連絡いただければ、状況をうかがったうえで、公的な窓口も含めて考えられる選択肢をお伝えします。初回のご相談は無料です。
よくあるご質問
家では元気そうなのに、休職が必要なのはなぜですか
適応障害は、環境変化によるストレスが本人の順応力を越えたときに生じる不調と説明されています(厚生労働省「こころの耳」用語集)。ストレスのもとになる環境から距離が置かれると、症状が軽くなって見えることがあります。家での様子は負荷がかかっていない状態での様子ですので、同じ環境に戻ったときにどうなるかを、そこから判断することは難しいと考えられます。
適応障害とうつ病は何が違うのですか
厚生労働省「こころの耳」の用語集では、適応障害は「うつ病など他の精神疾患の診断がつくには至っていない状態」と説明されています。また、回復には薬物療法だけでなく、環境調整や環境に慣れること、順応力が増えることが重要とされています。診断は主治医が行うものですので、詳しいところは受診のときにお尋ねください。
復職の時期は家族が決めてよいのですか
こころの耳の職場復帰のガイダンスでは、自分の判断だけで話を進めるのではなく主治医によく相談すること、そのうえで職場の産業医や人事労務管理者が本人を経由して主治医と連携して進める手順が紹介されています。ご家族が復職の可否を判定する立場ではありませんので、判断を背負い込まずに、主治医と職場の窓口につないでいただくのがよいと思います。
同じ職場に戻って再発しないか心配です
戻る環境をそのままにしないという考え方があります。こころの耳の用語集では、事業者が産業医等の意見を聴いて就業場所の変更や作業の転換などの措置を講じることが求められていると説明されています。どこまで実現できるかは職場によりますが、相談してよい事柄です。段階的に慣らしていく通勤訓練という方法も紹介されています。
適応障害でも訪問看護は利用できますか
精神科訪問看護の利用には、精神科を担当する主治医が交付する訪問看護指示書が必要です。診断名だけで決まるものではなく、主治医が訪問看護による支援の必要性を判断して指示書を交付するかどうかが起点になります。まずは主治医にご相談ください。ご家族だけで様子を相談したいという段階でも、お問い合わせいただいて構いません。



