
令和8年6月1日施行の診療報酬改定が、3月に告示されました。今回の改定は訪問看護ステーションの経営と現場に大きく影響する内容が多く含まれています。この連載では、全10回にわたって改定内容を訪問看護の視点からわかりやすく解説していきます。
第1回は、改定の全体像を「5つの柱」に整理してお伝えします。
改定率は全体で+3.09% ― 過去最大級の引き上げ
今回の改定率+3.09%は、近年では最大規模です。この数字の内訳を見ると、約半分が「賃上げ対応」に充てられており、医療従事者の処遇改善が最重要課題として位置づけられていることがわかります。
さらに、物価高騰に対応するための+0.76%が加わり、医療機関・訪問看護ステーションの経営を守るための改定という側面も色濃く出ています。
訪問看護に関わる「5つの柱」
今回の改定で訪問看護ステーションに直接影響する内容は、大きく5つに分類できます。
柱1:賃上げ ― ベースアップ評価料の拡充
医療従事者の賃金を計画的に引き上げるための支援策です。訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)は、月780円から1,050円へ引き上げられました(令和8年6月施行・月1回算定)。対象は訪問看護ステーションに勤務する職員です。なお、よく混同されますが「28点から79点」「40歳未満の医師・歯科医師に拡大」といった点数・医師の話は、医療機関が算定する外来・在宅ベースアップ評価料の内容で、訪問看護ステーションの評価料(円建て・医師は対象外)とは別の制度です。
柱2:物価対応 ― 訪問看護物価対応料の新設
物価高騰に伴うコスト増に対応するため、「訪問看護物価対応料」が新たに創設されました。月の初日の訪問で60円、2日目以降は20円(令和9年度には倍額予定)が加算されます。小さな金額に見えますが、利用者数が多いステーションほど収入増に直結します。
柱3:質の高い訪問看護の推進
適正な訪問看護の提供体制を構築するため、運営基準が強化されます。看護目標や訪問看護計画に沿った実施の明確化、記録書への訪問開始・終了時刻の記載義務、安全管理体制の整備義務付けなど、現場の質を底上げする内容です。
柱4:同一建物居住者への評価の見直し
高齢者住まい等への訪問看護について、従来の「3人以上」で一律に減額されていた仕組みが細分化されます。利用者数の段階(9人以下、10〜19人、20〜49人、50人以上)と訪問日数に応じたきめ細かい評価に変わり、包括型訪問看護療養費も新設されます。
柱5:新設加算と医療DX対応
ICTを活用した医療情報連携の加算(月1,000円)の新設や、機能強化型訪問看護管理療養費4の新設、乳幼児加算の引き上げなど、ステーションの機能を正当に評価する仕組みが拡充されます。
改定のキーワード:今回の改定を一言で表すなら「適正化と処遇改善の両輪」です。賃上げと物価対応で経営を支えつつ、運営基準の強化や同一建物の適正化で質を担保する ― この二つの方向性を理解しておくことが重要です。
改定率の内訳を詳しく見る
| 区分 | 改定率 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 全体 | +3.09% | 賃上げ+1.70%、物価対応+0.76%、本体+0.62% |
| うち医科(※1~5以外) | +0.28% | 各科改定率(賃上げ・物価対応等を除く) |
| うち歯科(※1~5以外) | +0.31% | 各科改定率(賃上げ・物価対応等を除く) |
| うち調剤(※1~5以外) | +0.08% | 各科改定率(賃上げ・物価対応等を除く) |
訪問看護は「医科」の中に含まれるため、全体+3.09%の改定率に基づく見直しが行われます。ただし、訪問看護ステーションへの配分は個別の項目ごとに設定されているため、次回以降の記事で具体的な点数変更を詳しく見ていきます。
📈 専門的ポイント:ステーション経営への影響
- ベースアップ評価料(Ⅰ):月780円から1,050円(令和8年6月)への引き上げは、対象職員が多いほど増収効果が大きい。算定には「当該訪問看護ステーションに勤務する職員の賃金の改善を図る体制」が要件で、令和8年6月からの算定は届出のやり直しが必要(既届出施設も再届出)。
- 物価対応料:訪問看護物価対応料1は区分番号02を算定する利用者が対象。月の初日60円、2日目以降20円。令和9年度に倍増予定のため、2年間の収支シミュレーションが重要。
- 同一建物の評価細分化:高齢者住まい等に多数の利用者を持つステーションは、人数区分によって収入が変動する。50人以上の区分では単価が下がるため、経営戦略の見直しが必要になる場合も。
- 令和8年度と令和9年度の段階的評価:ベースアップ評価料(Ⅰ)の額は1,050円で据え置きだが、物価対応料は令和9年6月から倍額(初日120円・2日目以降40円)になり、ベースアップ評価料(Ⅱ)の区分も令和9年6月以降に拡大される。2年スパンの収支シミュレーションが重要。
この連載で扱うテーマ
次回以降、以下のテーマを1記事ずつ深掘りしていきます。実務で必要な算定要件や届出スケジュールまで網羅しますので、ぜひ連載を通じてご活用ください。
Vol.2 賃上げ対応 ― ベースアップ評価料の具体的な点数と算定要件
Vol.3 物価対応 ― 訪問看護物価対応料と入院基本料の見直し
Vol.4 訪問看護基本療養費 ― 新しい点数体系の全容
Vol.5 同一建物居住者への訪問看護 ― 細分化された評価を徹底解説
Vol.6 適正な訪問看護 ― 運営基準の改正と記録要件
Vol.7 新設加算まとめ ― ICT連携加算・包括型・機能強化型
Vol.8 精神科訪問看護の改定ポイント
Vol.9 医療DXとオンライン対応
Vol.10 経過措置・届出スケジュール ― 準備チェックリスト
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📚 全記事一覧(全10回)
- Vol.1 令和8年度 診療報酬改定の全体像― 訪問看護ステーションが押さえるべき5つの柱 ◀ 今ここ
- Vol.2 賃上げ対応 ― ベースアップ評価料が大幅見直し訪問看護ステーションへの影響を徹底解説
- Vol.3 物価対応 ― 新設「訪問看護物価対応料」と物件費高騰への対策
- Vol.4 訪問看護基本療養費の見直し ― 新しい点数体系の全容
- Vol.5 同一建物居住者への訪問看護 ― 評価の細分化を徹底解説
- Vol.6 適正な訪問看護の推進 ― 運営基準の改正と記録要件の強化
- Vol.7 新設加算まとめ ― ICT連携・包括型・機能強化型の新評価
- Vol.8 精神科訪問看護の改定ポイント ― 機能強化型の新設と評価の見直し
- Vol.9 医療DX・オンライン対応と訪問看護 ― ICT活用の新たな評価
- Vol.10 経過措置と届出スケジュール ― 改定対応の実務チェックリスト(最終回)



