訪問看護の利用者誘引・金品授受の禁止とは?2026年6月施行の運営基準改正と疑義解釈その8を解説


2026年6月施行 運営基準改正 利用者誘引の禁止

2026年6月、訪問看護の「運営基準」が変わりました

2026年(令和8年)6月1日、訪問看護ステーションの運営に関するルールが改正されました。改正されたのは「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年厚生省令第80号)です。これは医療保険(訪問看護療養費)に基づいて訪問看護を提供する事業所が守るべき基準で、精神科訪問看護を中心に医療保険で運営している当ステーションにも、そのまま適用されます。

今回の改正の柱は、利用者を獲得するための「不適切な誘引・誘導」を明確に禁止したことです。あわせて、2026年6月17日には厚生労働省保険局医療課から疑義解釈資料(その8)が発出され、どこまでがアウトで、どこからがセーフなのかの考え方が具体的に示されました。この記事では、専門職の皆さまに向けて、改正の中身と実務上の注意点を整理します。

なお、改正省令の公布は2026年3月5日、施行は6月1日です。公布日と施行日が分かれているため、対応の起点は「6月1日」とおさえておくと混乱しません。

改正の核心:利用者誘引・誘導の禁止(第5条の3から第5条の5)

今回の改正では、基準に次の3つの条文が整理・新設されました。いずれも「健全な保険運営を守る」という同じ考え方に立っています。

  • 第5条の3(健康保険事業等の健全な運営の確保):訪問看護の提供が、保険制度全体の健全な運営を損なうものであってはならない、という基本姿勢を定めています。
  • 第5条の4(経済上の利益の提供による誘引の禁止):利用者を紹介してもらう対価として金品などの経済上の利益を提供し、自事業所で訪問看護を受けるよう誘引することを禁止します。
  • 第5条の5(特定の主治の医師及び特定の事業者等への誘導の禁止):利用者に対し、特定の医師や事業者を不当に勧めて誘導することを禁止します。

第5条の4は、疑義解釈(その8)でも取り上げられており、おおむね次の内容です。訪問看護ステーションは、他の事業者やその従業員に対して、利用者を紹介してもらう対価として金品その他の経済上の利益(健康保険事業や後期高齢者医療制度の健全な運営を損なうおそれのあるもの)を提供し、自事業所で指定訪問看護を受けるよう誘引してはならない、というものです。つまり、規制の中心は「紹介の対価としての利益供与による誘引」です。

「経済上の利益」とは具体的に何を指すのか

「経済上の利益」と聞くと現金のリベートを思い浮かべがちですが、疑義解釈(その8)はもっと広く定義しています。具体的には「金銭、物品、便益、労務、饗応等」が含まれるとされ、通常の価格より安く物やサービスを購入できるといった利益も対象になります。

また、紹介の対象となる「利用者」は、サービス付き高齢者向け住宅や施設の入居者だけでなく、戸建てにお住まいの方も含まれると整理されています。「集合住宅の話だから自分たちには関係ない」とは言えない、という点に注意が必要です。

名目を変えても「実質」で判断されます

実務でいちばん気をつけたいのが、契約の名目を変えれば規制を避けられる、という考え方が通用しない点です。疑義解釈(その8)は、契約書上の名目にかかわらず実質で判断するという立場を明確にしています。

  • 広報・宣伝の業務委託料や、送迎の運転業務委託料などに、紹介の対価を上乗せして支払うケース
  • 委託料や建物の賃借料が、訪問看護療養費の一定割合や、紹介された利用者数に応じて決められているケース

こうした支払いは、たとえ「業務委託料」「賃借料」という名目であっても、実質的に紹介の対価とみなされうるとされています。連携先との金銭のやりとりがある場合は、その金額の根拠が「紹介数」や「売上」に連動していないかを、あらためて確認しておくと安心です。

「正当な連携」と「不当な誘引」の境界線

ここで多くの方が気になるのは、「では、施設や医療機関との連携そのものが禁止されたのか」という点だと思います。答えは「いいえ」です。今回の規制が禁じているのは、あくまで紹介の対価としての経済上の利益供与による誘引であり、対価性のない正当な連携や情報提供までを禁じるものではありません。

疑義解釈(その8)は、線引きの考え方も示しています。たとえば訪問看護ステーションを併設する高齢者向け住宅などが利用者を紹介していても、利用者が自由に他の事業所も選べる状態にあり、実際に別の事業所を利用している人が複数いる場合などは、誘引にあたらないこともあるとされています。判断にあたっては、利用者への説明書や同意書の内容、他の事業所の利用者数などを総合的に勘案するとされています。

さらに問3では、集合住宅への入居の要件として特定の訪問看護ステーションの利用を事実上強制し、一人ひとりの個別性を踏まえずに訪問看護を行うことは、基準(第14条)に照らしてあってはならない、と整理されています。

違反するとどうなるのか

この基準は医療保険(健康保険法)に基づくものです。違反があった場合は、健康保険法に基づく指導や、指定訪問看護事業者の指定の取消し等の対象になり得ます。

なお、介護保険の世界でよく説明される「勧告から公表、命令、指定取消へ」という段階的な仕組みは、介護保険法の枠組みであり、医療保険側の指定訪問看護にそのまま当てはまるものではありません。制裁の具体的な発動要件は健康保険法の条文で定められているため、本記事では段階を断定せず、「指導や指定取消等の対象になり得る」という整理にとどめます。いずれにせよ、行政の指導対象になること自体が事業所にとって大きなリスクであり、日頃から対価性のあるやりとりを持たないことが最善の備えです。

当ステーションの考え方:紹介の対価はやりとりしません

当ステーションは、開設当初から、紹介の対価として金品や経済上の利益をやりとりしていません。ケアマネジャーや医療機関、施設の皆さまとの関係は、利用者にとって必要な連携と情報共有に基づくものであり、紹介数に応じた支払いや割引、便宜供与といった仕組みは一切持っていません。

そのため、今回の改正による運用の変更点は当ステーションにはありません。私たちが大切にしているのは、利用者一人ひとりの状態と希望に沿った訪問看護計画を立て、個別性のあるケアを記録とともに積み重ねることです。これは、今回の改正が目指す「適正で質の高い訪問看護」と同じ方向を向いています。

ケアマネジャー・医療機関の皆さまへ

今回の改正は、紹介をためらわせるためのものではありません。むしろ、対価性のない健全な連携を、安心して続けていただくための土台づくりです。当ステーションへのご紹介にあたって、見返りをお求めいただく必要はありませんし、私たちからお渡しすることもありません。利用者にとって精神科訪問看護が役立つと考えられるとき、フラットにご相談いただければと思います。

連携の進め方やタイミングについては、ケアマネ・相談員向けの連携ガイドもご用意しています。ご不明な点は、お電話(TEL 042-508-3434/受付 9:00-18:00)でもお気軽にお問い合わせください。

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参考資料・出典

  • 厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について(その8)」(令和8年6月17日事務連絡)別添3「訪問看護療養費関係」問1から問3
  • 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年厚生省令第80号)第5条の3から第5条の5・第14条

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