
「もう限界」は、甘えでも、わがままでもありません
精神疾患や認知症のあるご家族を、家で支えている。
気づけば何年も、自分のことは後回しにしてきた。
「もう限界かもしれない」
そう感じたとき、多くのご家族が、その気持ちにフタをしてしまいます。「私が支えなきゃ」「家族なんだから当たり前」「弱音を吐いてはいけない」と。
でも、まず最初にお伝えしたいことがあります。
「もう限界」と感じることは、甘えでも、わがままでも、愛情が足りないからでもありません。それは、あなたがこれまで十分すぎるほどがんばってきた、という何よりの証拠です。
この記事は、「家族として何をすべきか」という“宿題”の話ではありません。
あなたが倒れてしまう前に、知っておいてほしい「逃げ道」と「選択肢」の話です。
心構えについては Vol.43「つらい家族に、何をすればいい?」 で、毎日の関わりのヒントは Vol.16「家族ができること・介護疲れを減らす5つのヒント」 でお伝えしています。この記事は、その先の「もう限界」というところまで来てしまったときの、現実的な選択肢に絞ってお話しします。
こんなサインが出ていたら、もう十分がんばっています
限界は、ある日突然やってくるものではありません。少しずつ、静かに、心と体をすり減らしていきます。こんなサインが出ていたら、あなたはもう十分すぎるほどがんばっています。
- 夜、眠れない。眠ってもすぐ目が覚める
- 理由もなく涙が出る。何をしても楽しくない
- 支えているはずの相手を、ふと「いなくなってほしい」と思ってしまう自分がいる
- そう思った自分を、激しく責めてしまう
- 友人や親戚と疎遠になり、相談できる人がいない
- 食欲がない、または食べすぎる。頭痛や肩こりが取れない
特に、「相手を憎らしく思ってしまう」という気持ちは、多くのご家族が経験し、そして誰にも言えずに抱え込むものです。それは、あなたの心が冷たいからではありません。それだけ近くで、長く、必死に支えてきたからこそ生まれる、自然な反応です。
サインに気づいたら、どうか自分を責めないでください。気づけたことが、共倒れを防ぐ第一歩です。
なぜ、家族は「共倒れ」してしまうのか
がんばり屋のご家族ほど、共倒れに向かいやすい。そこには、いくつかの理由があります。
1. 終わりが見えない
病気の回復には波があり、「いつまで」という期限がありません。ゴールの見えないマラソンを、全力で走り続けることはできません。
2. 24時間、気が休まらない
夜間や急変への不安で、心が常に“オン”の状態になります。物理的に離れていても、頭の中は相手のことでいっぱい、という方も少なくありません。
3. 「家族なんだから」という呪い
「身内のことは身内で」という思い込みが、外に助けを求めることをためらわせます。でも、これは思い込みです。支える人を、社会全体で支える仕組みは、ちゃんと用意されています。
4. 相談できる相手がいない
病気のことは外に話しづらく、孤立しやすい。一人で抱えるほど、視野は狭くなっていきます。
共倒れは、あなたの努力が足りないから起きるのではありません。一人で背負うには、もともと重すぎるのです。
限界が来る前に。「距離」と「分担」は、逃げではありません
倒れてしまってからでは、選べる手段が限られてしまいます。だからこそ、限界の手前で意識してほしいことが2つあります。
全部を背負わないこと。
食事、服薬、通院、見守り、家事。そのすべてを一人で抱える必要はありません。誰かに、何かに、手放していい部分が必ずあります。
物理的に離れる時間をつくること。
数時間でも、相手と離れて自分だけの時間を持つこと。これは「見捨てる」ことでも「サボる」ことでもありません。あなたが明日も支え続けるための、必要な充電です。
「離れたい」と思うことに、罪悪感を持たなくて大丈夫です。その気持ちは、限界が近いという、心からの大切なサインなのですから。
知っておいてほしい、具体的な「出口」の選択肢
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。「もう無理」と感じたとき、頼れる現実的な選択肢があります。
① レスパイト入院(介護者の休息のための一時入院)
レスパイトとは「休息」という意味です。介護するご家族が、疲れや体調不良、冠婚葬祭などで一時的に支えるのが難しいとき、ご本人に短期間(多くの病院で1週間から2週間程度が目安)入院していただく仕組みです。受け入れの可否や期間は、ご本人の状態や病院の体制によって変わるため、まずは主治医や訪問看護師にご相談ください。
② 短期入所(ショートステイ)
施設に短期間泊まっていただき、その間ご家族が休む仕組みです。介護保険(要介護認定がある場合)や、障害福祉サービスの短期入所などがあり、利用には市区町村の支給決定などの手続きが必要です(障害福祉サービスの場合は障害支援区分の認定が前提になります)。お住まいの窓口や相談支援専門員、ケアマネジャーが入口になります。
③ 訪問看護・ヘルパーで「手を分ける」
すべてを家族だけでやらない、という選択です。訪問看護師が定期的に入ることで、服薬や体調の見守りを分担できます。ヘルパー(訪問介護)や日中の通所サービスと組み合わせれば、ご家族が一人で背負う部分を、確実に減らしていけます。
④ 家族会・ピアサポート(同じ立場の人とつながる)
同じ悩みを持つ家族同士が、語り合い、支え合う場です。精神疾患のあるご家族の全国組織として 「みんなねっと」(公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会) があり、全国に約1,200の家族会があります。無料・匿名で使えるオンラインの「みんなねっとサロン」もあります。認知症の場合は 「認知症の人と家族の会」 が各地で活動しています。「わかってもらえる人がいる」というだけで、心がふっと軽くなることがあります。
⑤ 公的な相談窓口
一人で抱え込まず、専門の窓口に話すことができます。
- 保健所・精神保健福祉センター … 精神疾患について、ご本人だけでなくご家族の相談も受け付けています
- 地域包括支援センター … 高齢のご家族の介護について、まず相談できる窓口です
- 市区町村の障害福祉・高齢福祉の窓口 … 使える制度やサービスの入口を案内してくれます
府中市にお住まいの方は、この記事の後半で具体的な窓口をご案内しています。
支える負担は、病気によって少しずつ違います
ここまでは、病気を問わず共通する「限界のサイン」と「出口の選択肢」をお伝えしてきました。ただ、実際にご家族が抱える重さは、ご本人の病気や状態によって少しずつ違います。どこがいちばんしんどいのかがはっきりすると、頼る先も選びやすくなります。
うつ病で休職中のご家族を支えている場合は、「いつ働けるようになるのか」という先の見えなさと、本人を急かしてはいけないという緊張が重なりやすい時期です。復職の進め方と、支える側が抱え込まないための分担については うつ病で休職中の家族へ|共倒れしないために大切な5つのこと(Vol.74) で詳しくお話ししています。
適応障害で休職中のご家族の場合は、環境が変われば落ち着くこともあり、「休ませるべきか、動かすべきか」の判断にご家族が迷いやすいのが特徴です。関わり方と復職の決め方は 適応障害で休職中の家族が疲れたとき|関わり方と復職の決め方(Vol.75) にまとめています。
統合失調症で、症状は落ち着いているのに動けない時期は、「怠けているのでは」と受け取られてしまい、ご家族が孤立しやすい場面です。陰性症状という状態と、そのときの関わり方は 統合失調症、安定期に意欲が出ないとき|陰性症状と家族の関わり方(Vol.92) でお伝えしています。
認知症のご家族を介護している場合は、目を離せない時間が長く、休息そのものが取りにくくなります。レスパイトの具体的な使い方は 認知症の介護に疲れたら|レスパイトケアの種類と、訪問看護にできること(Vol.65) をご覧ください。
ご本人が長く家から出られない状態が続いている場合は、ご家族自身も高齢になり、先の不安が重くのしかかります。つなぎ方と使える条件は ひきこもりに訪問看護は入れる?8050問題のご家族が知っておきたい条件とつなぎ方(Vol.62) でご説明しています。
どの状態であっても、「もう限界」と感じたときにやることは同じです。一人で抱えている部分を、誰かと分けること。病気が違っても、そこは変わりません。
府中市にお住まいの方へ|ご家族が相談できる窓口
「どこに相談すればいいかわからない」という声を、私たちもよくお聞きします。府中市とその周辺でご家族が使える窓口を、公式に案内されている内容でご紹介します。
府中市 健康推進課 成人保健係(保健センター)
こころの健康に関する相談の窓口です。電話 042-368-6511、受付は平日8時30分から17時まで(正午から午後1時は当番の職員が対応)と案内されています。
多摩府中保健所
精神保健福祉に関する相談を担当しています。電話 042-362-2334。府中市の案内と東京都保健医療局の案内の両方に、同じ電話番号が掲載されています。
東京都「こころといのちのほっとライン」
電話とLINEで相談できる、東京都の窓口です。電話 0570-087478。相談料は無料ですが、別途通話料がかかります。0570で始まるナビダイヤルは、携帯電話の無料通話やかけ放題プランなどの対象外になる点が、東京都のページに明記されています。
地域包括支援センター(市内に11か所)
高齢のご家族の介護について、まず相談できる窓口です。府中市の案内では、利用できる方は「おおむね65歳以上の方や、そのご家族」、相談は無料で、各センターに直接相談する方法が示されています。お住まいの地区の担当センターは、市の公式ページで確認できます。
受付時間や対象は変わることがありますので、お出かけになる前に、各窓口の公式ページや電話で最新の内容をご確認ください。どの窓口に相談すればよいか迷うときは、私たちにお声がけいただければ、一緒に整理いたします。
訪問看護は、ご本人だけでなく「ご家族の負担」も支えます
訪問看護というと、「病気のご本人のためのもの」と思われがちです。でも実際には、ご家族の負担を分け合うことも、私たちの大切な役割です。
- 第三者が定期的に入る安心 … 家の中に、家族以外の専門職が関わることで、抱え込みがやわらぎます
- 変化に早めに気づく … 状態の小さな変化を見て、悪くなる前に手を打てるよう、主治医と連携します
- ご家族の話も聞きます … 訪問の時間は、ご本人だけでなく、支えるご家族が気持ちを話せる場でもあります
- 使える制度やサービスの整理 … レスパイトや相談窓口など、「どこに頼ればいいか」を一緒に考えます
- 精神科の入退院を繰り返すとき|家族ができる再発サインとクライシスプラン【Vol.72】
なお、訪問看護のご利用には、主治医の訪問看護指示書が必要です。「指示書をどう頼めばいいかわからない」という場合も、依頼のお手伝いをいたしますので、ご安心ください。
私たちは、ご家族に「もっとがんばってください」とお声がけすることはありません。むしろ、「もう少し、私たちに預けてください」とお伝えしたいのです。
「うちは、まだ大丈夫」と思っているあなたへ
最後に、いちばん伝えたいことを。
相談は、限界に達してから駆け込むものだと思われがちです。でも実際は、早めに動くほど、選べる手段はたくさん残っています。倒れてしまってからでは、レスパイトの調整も、サービスの手続きも、間に合わないことがあります。
「まだ大丈夫」と思える今こそ、選択肢を知っておくのにいちばんいいタイミングです。知っておくだけでいい。使うかどうかは、そのときのあなたが決めればいいのです。
あなたが心と体を守ることは、支えているご本人を守ることでもあります。どうか、あなた自身のことも、大切にしてください。
よくあるご質問
家族だけで相談してもいいですか。本人はまだ受診していません。
はい、ご家族だけのご相談をお受けしています。ご本人が受診されていない段階では、訪問看護をすぐに始めることはできませんが、受診につなげる進め方や、今できる関わり方を一緒に考えることはできます。詳しくは 精神科訪問看護は家族だけで相談できる?本人が受診していないときの進め方(Vol.61) をご覧ください。
距離をとるのは、見捨てることになりませんか。
いいえ、距離をとることと見捨てることは別のものです。離れる時間をつくるのは、明日も支え続けるための準備です。支える人が倒れてしまうと、ご本人の生活そのものが止まってしまいます。「離れたい」と感じること自体が、限界が近いというサインだとお考えください。
本人が訪問看護を嫌がっています。それでも相談できますか。
ご相談いただけます。ご本人が乗り気でない理由は、知らない人が家に入ることへの抵抗、費用の心配、病気と認めたくない気持ちなど、さまざまです。その理由によって、お伝えできる進め方が変わります。ご本人の意向を確かめないまま訪問を始めることのないようにしていますので、まずは状況をお聞かせください。
レスパイト入院は、頼めばすぐに使えますか。
すぐに使えるとは限りません。受け入れの可否や期間は、ご本人の状態と病院の体制によって変わります。空きの状況にも左右されますので、「限界が来てから」ではなく、余裕のあるうちに主治医や訪問看護師にご相談いただくことをおすすめしています。
費用はどのくらいかかりますか。
精神科訪問看護は医療保険の対象で、自己負担の割合は加入されている保険や年齢によって決まります。自立支援医療(精神通院医療)の対象となる方は、月の自己負担に上限が設けられます。金額の目安は 精神科訪問看護の料金はいくら?|1回いくら・月いくら・0円になる方も(Vol.48) に、自立支援医療の仕組みは 自立支援医療とは?精神科訪問看護で月の自己負担を下げる仕組み(Vol.33) にまとめています。なお、当ステーションでは訪問の交通費はいただいていません。
ひとりで抱えなくて大丈夫です|府中よりそい訪問看護ステーション
「家族だけで支えるのがつらい」「何から相談すればいいかわからない」
そんなときは、府中よりそい訪問看護ステーションにお声がけください。
精神科訪問看護を専門とし、医療顧問の青栁先生と連携しながら、ご本人とご家族の暮らしに寄り添います。ご利用や訪問看護指示書のことも、ていねいにご案内・お手伝いいたします。
お問い合わせ TEL:042-508-3434(受付 9:00-18:00)
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府中よりそい訪問看護ステーションは、府中市を中心に近隣の市にも訪問しています。訪問できる地域は対応エリアのご案内から郵便番号でご確認いただけます。訪問の交通費はいただいていません。



