一人暮らしの親が認知症かも?帰省で気づく変化と、独居を支える訪問看護【Vol.63】


「久しぶりに実家に帰ったら、冷蔵庫に同じものがいくつも入っていた」「しっかり者だった母が、支払いの話を何度も聞き返してくる」。お盆の帰省は、離れて暮らす親の変化に気づく大切な機会です。そして「一人暮らしのまま、この先大丈夫だろうか」という心配が、はじめて現実味を帯びる瞬間でもあります。

この記事では、帰省のときに見ておきたい変化のチェックポイントと、「一人暮らしだから、もう施設か同居しかない」と結論を急ぐ前に知っていただきたい「独居のまま、その人らしい生活を支える」という公的な実践ガイドの考え方、そして訪問看護にできることを、府中市の相談窓口とあわせてご紹介します。

一人暮らしの親の「あれ?」は、珍しいことではありません

厚生労働省の研究班の推計では、認知症の高齢者は2030年に約523万人になるとされています。そして、東京都健康長寿医療センターの実践ガイド(後述)によれば、認知症のある方の2割以上がひとり暮らしと推計されています。「一人暮らしで認知症」は、決して特別な状況ではなく、これからますます当たり前になっていく暮らしの形です。

だからこそ、帰省で感じた「あれ?」を、「気のせいかな」と流してしまわないことが大切です。早く気づけるほど、ご本人の力が残っているうちに、生活を支える準備を無理なく整えられます。

お盆の帰省で見ておきたい、変化のチェックポイント

訪問看護の現場でご家族からよくうかがう「最初のサイン」と、公的なチェックリストの項目から、帰省のときに見ておきたいポイントをまとめました。

  • 冷蔵庫・台所:賞味期限切れの食品や、同じものの買い置きが増えていないか。料理の味付けや段取りが変わっていないか
  • お金まわり:公共料金や家賃の支払いが滞っていないか。財布に小銭ばかり増えていないか(お札で払い続けるサイン)
  • 郵便物・書類:未開封の郵便物や、重要そうな通知がたまっていないか
  • :飲み残しがたまっていないか。お薬カレンダーが止まっていないか
  • 日付と予定:今日が何月何日か、あいまいになっていないか。約束や通院日を忘れることが増えていないか
  • 身だしなみと意欲:以前より身なりに構わなくなった、好きだったことをやめてしまった、ということがないか
  • ご近所づきあい:親しかった人との行き来が途絶えていないか

東京都は「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」を公開しており、ご本人の様子を知るご家族が代わりにチェックすることもできます。ただし、どのチェックリストもあくまで目安です。当てはまる項目があっても、それだけで認知症と決まるわけではありません。診断は医療機関で受けるものです。そして、帰省の場で「試すような質問」を重ねるのは、ご本人との関係を損ねがちです。体調のよいときに、さりげなく生活の様子を見る。それで十分です。

「一人暮らし=もう限界」ではない、という考え方

親の変化に気づいたとき、多くのご家族が「施設を探すべきか」「同居するしかないのか」という二択で悩み始めます。けれど、支援の現場の考え方は少し違います。

東京都健康長寿医療センターの研究チームは、厚生労働省の研究事業(厚生労働科学研究費補助金・認知症政策研究事業、令和6年度)の一環として、『独居認知症高齢者の自立生活を支える訪問看護の実践ガイド』を作成しています。タイトルのとおり、このガイドの主題は「一人暮らしをやめさせる」ことではなく、「一人暮らしのまま、その人らしい自立した生活を続けられるように支える」ことです。

土台に置かれているのは、ご本人を中心に考えるケア(パーソン・センタード・ケア)と多職種の協働です。リスクをゼロにしようとして本人のできることまで取り上げるのではなく、優先順位をつけて安全と自立を両立させていく。認知症のある方の2割以上がひとり暮らしという現実を踏まえた、実践的な考え方です。

実践ガイドに学ぶ「4つの支援ステップ」

このガイドでは、独居の認知症の方への訪問看護を4つのステップ(全18項目のチェックリスト)で進めることが示されています。ご家族にとっても、「支援がどんな順番で組み立てられていくのか」を知る手がかりになります。

  1. コミュニケーションと信頼づくり:まず、ご本人に「安心して会える人」と感じてもらうところから。支援は信頼関係の上にしか成り立ちません
  2. 本人理解と生活アセスメント:その方の価値観や暮らしぶりを理解し、生活の様子と心身の状態、リスクをていねいに把握します
  3. 多職種と協働した個別的支援:ご家族の考えを聞き、ケアマネジャーや主治医など関係者と方針をすり合わせ、その方だけの支援を組み立てます
  4. 医学的判断と意思決定支援:リスク対策に優先順位をつけ、これからの暮らしをご本人・ご家族と一緒に話し合って決めていきます

注目していただきたいのは、どのステップも「ご本人と一緒に」進める前提で書かれていることです。周りが先回りして決めるのではなく、ご本人の意向を聞き、残っている力を活かす。「できること」を奪わない関わり方(Vol.52)でお伝えした考え方と、まっすぐつながっています。

訪問看護が、独居の認知症の方にできること

一人暮らしの認知症の方のお宅に訪問看護が定期的に入ると、次のような支えができます。

  • 体調の定期チェック:血圧や体温などの確認に加え、食事・水分・睡眠の様子から、体調の崩れを早めにキャッチします
  • お薬の管理のお手伝い:飲み忘れ・飲みすぎを防ぐ工夫を、ご本人のやり方を尊重しながら一緒につくります
  • 生活リズムの見守り:ご本人の「いつもどおり」を知っている専門職が定期的に訪ねることで、小さな変化に気づけます
  • 異変の早期発見と連絡:様子がいつもと違うとき、主治医やケアマネジャー、ご家族へ速やかにつなぎます
  • 離れて暮らすご家族への報告:訪問のたびの様子をご家族と共有し、「見えない不安」を「見える安心」に変えます

実践ガイドが示すとおり、最初の仕事は信頼づくりです。「知らない人が家に来る」ことへの抵抗があるのは自然なことなので、はじめはあいさつと世間話だけ、という訪問から始まることもよくあります。

遠方に住むご家族ができること

「近くに住んでいれば毎日顔を出せるのに」と、ご自分を責めるご家族は少なくありません。けれど、遠方だからこそできる大切な役割があります。

  • 地域の支援窓口とつながっておく:親御さんの住む地区の地域包括支援センターに、帰省のタイミングで一度相談しておくと、離れたあとも地元に「気にかけてくれる専門職」ができます
  • 見守りを重ねる:電話やビデオ通話、ご近所や親戚への声かけ、訪問看護やヘルパーなどの定期訪問。ひとつで完璧を目指さず、薄く重ねるのが現実的です
  • 情報の受け取り役になる:訪問看護からの報告を受け取り、変化があれば主治医の受診や支援の見直しにつなげる。この舵取りは、遠方からでも十分果たせます

もしご本人が「病院なんて行かない」と受診を嫌がっている段階なら、受診につなげるために家族ができること(Vol.40)で、切り出し方の工夫をくわしくお伝えしています。

府中市の相談窓口

親御さんが府中市にお住まいの場合、次の窓口が使えます。いずれも、ご家族だけでの相談ができます。

  • 地域包括支援センター(市内11か所):高齢の方の暮らしと認知症の身近な相談窓口です。お住まいの地区の担当センターは、府中市ホームページでご確認いただけます
  • 府中市の認知症支援:市は認知症の状態に応じた支援をまとめた「認知症あんしんガイド(認知症ケアパス)」を公開しているほか、ご家族向けの介護者教室(オレンジサロン)などの場もあります
  • 公益社団法人 認知症の人と家族の会 電話相談(0120-294-456・月曜から金曜〔祝日を除く〕午前10時から午後3時):同じ経験をもつ家族による全国共通の無料電話相談です

「本人がまだ受診していないのに相談していいのだろうか」とためらう必要はありません。家族だけの相談から始める方法(Vol.61)でお伝えしたとおり、支援の多くはご家族の相談から動き始めます。

当ステーションの認知症ケア

府中よりそい訪問看護ステーションは、精神科・認知症ケアに力を入れる訪問看護ステーションです。認知症の診療に携わってきた青栁先生(医療顧問)と日常的に連携しており、訪問で気づいた変化を医療の判断につなげる体制を整えています。連携のかたちは医療顧問・青栁医師との連携(Vol.31)でご紹介しています。

一人暮らしの方への訪問では、実践ガイドと同じく、まず信頼関係づくりから始めます。遠方のご家族には、訪問のたびのご様子をお伝えし、「離れていても様子がわかる」状態をつくることを大切にしています。なお、訪問看護が医療保険になるか介護保険になるかは、要介護認定の有無や主治医の指示内容によって変わります。ご相談の際に、その方の状況に沿ってご説明します。

まとめ:帰省で気づいたら、家族の相談から始めてください

一人暮らしの親の変化に気づいたとき、「施設か同居か」と結論を急ぐ必要はありません。公的な実践ガイドが示すとおり、独居のまま、その人らしい生活を支え続ける道があります。その第一歩は、ご本人を説得することではなく、ご家族が相談できる場所を持つことです。

帰省で感じた「あれ?」を、そのままにせず、どうか誰かに話してみてください。地域包括支援センターでも、当ステーションでも、入り口はどこでも構いません。

府中よりそい訪問看護ステーション
電話:042-508-3434(受付 9:00から18:00)
お問い合わせフォーム(24時間受付)
府中市を中心に、近隣の多摩地域へお伺いしています(対応エリアの確認はこちら)。遠方にお住まいのご家族からのお電話でのご相談も承っています。初回のご相談は無料です。

よくあるご質問

一人暮らしでも訪問看護を利用できますか?

ご利用いただけます。主治医が必要と判断し、指示書を交付することが条件です。国の研究事業でも、一人暮らしの認知症の方の自立した生活を訪問看護で支えるための実践ガイドが作られています。

医療保険と介護保険、どちらになりますか?

ケースによって変わります。要介護・要支援の認定を受けている方は原則として介護保険が優先ですが、病状や主治医の指示内容によって医療保険になる場合もあります。ご相談の際に状況をうかがって確認します。

本人は「困っていない」と言います。どうすればいいですか?

とてもよくあることです。説得を急がず、まずご家族だけで地域包括支援センターや当ステーションにご相談ください。ご本人の気持ちを尊重しながら、どう関係をつくっていくかを一緒に考えます。

遠方に住む家族だけでも相談できますか?

ご相談いただけます。お電話やお問い合わせフォームで、離れて暮らすご家族からのご相談を承っています。地域包括支援センターなど、親御さんの地元の窓口へのつなぎ方も一緒に考えます。

帰省したとき、本人に認知症のチェックをしてもいいですか?

試すような質問はご本人との関係を損ねがちなので、おすすめしません。生活の様子をさりげなく見ることで十分です。東京都のチェックリストはご家族が代わりに記入でき、結果はあくまで受診や相談の目安です。

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