
「もう来なくていいから」。訪問看護を利用しているご本人が、ある日そう口にする。あるいは、せっかく決まった訪問の初日を前に「やっぱりやめる」と言い出す。ご家族にとっては、頭が真っ白になる瞬間です。「せっかくつながった支援が切れてしまう」「また振り出しに戻るのか」と。
先にお伝えしたいのは、次の2つです。「来なくていい」は精神科訪問看護の現場では珍しいことではないこと。そして、一度お休みになっても、支援はそこで終わりではないことです。この記事では、ご本人が訪問を拒否したときに、説得ではない形でご家族にできることと、中断からの再開の実際を、制度の裏付けとあわせてお伝えします。
「来なくていい」は、珍しいことではありません
精神科訪問看護の対象となる方にとって、「他人が定期的に家に来る」こと自体が、大きなエネルギーのいる出来事です。拒否の言葉の背景には、いろいろなものが隠れています。
- 症状によるもの:気力が出ない時期は、人に会う準備そのものが重荷になります。「会いたくない」ではなく「会う元気がない」のかもしれません
- 自尊心によるもの:「看護が必要な自分」を認めることへの抵抗。「自分のことは自分でできる」と示したい気持ちは、回復への意欲の裏返しでもあります
- 関係や相性によるもの:担当者との距離感、訪問の時間帯や頻度が、ご本人のペースに合っていない場合もあります
- タイミングによるもの:調子のよい時期に「もう必要ない」と感じるのは自然なことです
つまり「来なくていい」は、わがままでも、支援の失敗でもありません。ご本人なりの理由がある意思表示です。だからこそ、正面から打ち消すのではなく、その背景を一緒に考えることが出発点になります。
まず立ち止まりたいこと──拒否が「体調のサイン」であることも
ひとつだけ、急いで確認していただきたいことがあります。それまで訪問を受け入れていた方が急に強く拒否するようになったとき、その変化自体が体調の揺らぎのサインである場合があることです。
眠れていない、食事が減っている、部屋の様子が変わった、表情が硬い。そうした変化が拒否と同時に見えているなら、「訪問をどうするか」の前に、主治医や訪問看護ステーションにその様子を伝えることを優先してください。ご本人を動かす必要はありません。ご家族が電話で様子を伝えるだけで、医療の側が対応を考える材料になります。
説得しない関わり方の基本
「来なくていい」と言われたとき、ご家族はつい「せっかく来てくれてるのに」「先生も心配してるよ」と説得したくなります。けれど、正面からの説得は、多くの場合ご本人の気持ちをかたくなにします。「わかってもらえない」という体験が積み重なるからです。私たちが現場で大切にしているのは、次のような関わり方です。
- 気持ちは受け止め、事実の確認はあとに:「来てほしくないんだね」とまず受け止める。理由を問い詰めない。「なんで?」は尋問に聞こえがちです
- やめる・続けるの二択にしない:「やめるか続けるか」ではなく、「どんな形なら負担が少ないか」に話をずらす。回数、時間帯、長さ、担当者。変えられる部分はたくさんあります
- ご本人の「自分でできる」を尊重する:「必要ない」の裏にある「自分でやれている」という感覚を否定しない。できていることを認めたうえで、「お守りみたいに続けるのはどうか」という提案が届くこともあります
導入の入り口でつまずいたときの声のかけ方は、精神科訪問看護をご家族からすすめるとき(Vol.19)でもくわしくお伝えしています。
ご家族ができる工夫
説得はしない。では、何ができるのでしょうか。
- タイミングを選ぶ:拒否の直後に話を戻さない。ご本人の調子が落ち着いているとき、何かのついでに、短く
- 主語を「私」にする:「あなたのために」ではなく「私が安心するから、月1回だけでも続けてもらえると助かる」。ご家族自身の気持ちとして伝える方が、押しつけになりません
- 第三者に間に入ってもらう:主治医からの一言で受け入れが変わることは、実際によくあります。診察の機会に「訪問看護を続けるかどうか」を話題にしてもらえるよう、事前にご家族から主治医へ伝えておくのもひとつの方法です
- ご家族が抱え込まない:ご本人への働きかけがすべてご家族の仕事になってしまうと、ご家族が先に疲れてしまいます。家族ができること・がんばらなくていいこと(Vol.43)でお伝えしたとおり、「がんばらなくていいこと」を決めるのも大切な工夫です
訪問看護側にも「続け方を変える」選択肢があります
拒否への対応は、ご家族だけの仕事ではありません。訪問看護ステーションの側にも、できることがあります。
- 時間を短くする:「30分は長い」という方に、まず顔を見るだけの短い訪問から再スタートする
- 玄関先・ドア越しから始める:部屋に上がらず、玄関先で数分話すだけの日があってもかまいません
- 間隔をあける:週2回を週1回に、あるいはもっとゆるやかに。主治医と相談しながら、ご本人が受け入れられるペースを探します
- 担当者や組み合わせを見直す:相性はケアの大切な要素です。担当の変更を申し出るのは、失礼なことではありません
「毎週きちんと部屋に上がって30分」だけが訪問看護ではありません。細くても、つながりが続いていることに意味があります。ただし、こうした工夫を重ねても、ご本人の気持ちがすぐに変わるとは限りません。無理に続けることがご本人を追い詰めるなら、一度お休みするという判断も、私たちは大切にしています。
一度お休みしても、再開できます
「中断したら、もう二度と使えなくなるのでは」と心配されるご家族は少なくありません。制度の面から整理すると、そんなことはありません。
訪問看護は、ご本人の同意(契約)に基づくサービスです。利用をお休みすること・やめることをご本人が選ぶのは自由で、制度上のペナルティはありません。一方で、私たち事業者の側には「正当な理由なくサービスの提供を拒んではならない」という義務が定められています(指定訪問看護の運営基準)。つまり、「一度断った人はもう受けられない」という仕組みには、制度上なっていないのです。
再開の手続きも、思っているより身軽です。訪問看護は主治医が交付する指示書に基づいて行われ、指示書には主治医が診療に基づいて定める有効期間があります(最長6か月)。お休みしたからといって指示書が無効になる、という定めはありません。有効期間内の再開であれば、新しい書類が必ず必要になるとは限りません。有効期間が過ぎている場合は、主治医から改めて指示書を交付してもらってからの再開になります。いずれの場合も、主治医と訪問看護ステーションが連携して進めますので、ご家族が手続きを抱え込む必要はありません。
実際の現場でも、「数か月お休みして、調子を崩しかけたタイミングで再開する」という経過はよくあります。一度つながった支援は、お休みの間も「いつでも戻れる場所」として残り続けます。
ご家族だけの相談を続けるという道
ご本人が訪問を受け入れない期間も、ご家族が相談を続けることはできます。精神科訪問看護は、制度上「精神疾患を有する方またはそのご家族等」を対象としており、主治医の指示書に基づいて、ご家族への支援としてお伺いできる場合があります。ご本人にお会いできない時期に、ご家族の関わり方を一緒に考えたり、ご家族自身の疲れを支えたりすることも、精神科訪問看護の仕事のうちです。
また、訪問という形にこだわらなくても、保健所の家族相談など、ご家族だけで使える窓口があります。くわしくは家族だけの相談から始める方法(Vol.61)にまとめています。ご本人が受診そのものを嫌がっている段階の工夫は、受診を嫌がる親への関わり方(Vol.40)も参考になります。
当ステーションの考え方──「来なくていい」も大切な意思表示
府中よりそい訪問看護ステーションは、精神科に特化した訪問看護ステーションとして、「来なくていい」という言葉を、支援の終わりではなくご本人からの大切な情報として受け取るようにしています。何が負担だったのか、どんな形なら受け入れられそうか。ご本人・ご家族・主治医と一緒に、続け方を組み立て直します。
正直にお伝えすると、関わり方を工夫しても、すぐにまたお会いできるようになるとはお約束できません。それでも、ご家族が相談を続けてくださる限り、私たちは一緒に考え続けることができます。お休み中の方の再開のご相談も、他のステーションをお使いだった方のご相談も承っています。
まとめ:「拒否」で終わりではなく、「形を変えて続く」支援へ
ご本人が「来なくていい」と言ったとき、ご家族にできるのは、説き伏せることではなく、気持ちを受け止めて、続け方の相談を専門職と一緒にすることです。訪問看護は、短く・軽く・間をあけて続けることもできますし、一度お休みしても再開できます。そしてご本人が受け入れない期間も、ご家族の相談は途切れずに続けられます。
「断られてしまって、どうしたらいいかわからない」。その段階のままで構いません。どうぞ一度、お話をお聞かせください。
府中よりそい訪問看護ステーション
電話:042-508-3434(受付 9:00から18:00)
お問い合わせフォーム(24時間受付)
府中市を中心に、近隣の多摩地域へお伺いしています(対応エリアの確認はこちら)。ご家族だけでのご相談も承っています。初回のご相談は無料です。
よくあるご質問
本人が会ってくれなくても、訪問を続けられますか?
ケースによりますが、道はあります。玄関先や短時間など形を変えて続けられる場合があるほか、精神科訪問看護では主治医の指示書に基づき、ご家族への支援としてお伺いできる場合があります。まず状況をご相談ください。
利用を中断したら、指示書はどうなりますか?
お休みしたからといって指示書が無効になる、という定めはありません。指示書には主治医が定める有効期間があり(最長6か月)、期間内の再開なら新しい書類が必ず必要になるとは限りません。期間が過ぎていれば、主治医から改めて交付を受けてから再開します。
本人に内緒で、家族だけで相談してもいいですか?
ご相談いただけます。ご本人の気持ちが落ち着くまで、ご家族だけの相談から始める方はたくさんいらっしゃいます。そのうえで、ご本人にいつ・どう伝えるかは、信頼関係を損ねないよう一緒に考えていきます。
拒否が続くとき、誰に相談すればいいですか?
利用中の方は、担当の訪問看護ステーションと主治医が最初の相談先です。そのほか、保健所ではご家族だけでの相談ができます(府中市の場合は東京都多摩府中保健所 042-362-2334)。ひとりで抱え込まないでください。
再開したいときは、どうすればいいですか?
それまで利用していた訪問看護ステーションか、主治医にご連絡ください。指示書の有効期間内かどうかを確認し、必要な場合は主治医から改めて指示書を交付してもらいます。手続きは事業者と主治医が連携して進めます。



